どうしてなのでしょうか。流行の兆しが見られた時期は、ちょうど世界中で新型コロナウイルス感染症に対する対策が取られ始めた頃でした。南半球の温帯地方に属するオーストラリアや南アフリカ、アルゼンチンやチリでも、国全体ないしは大都市でロックダウンが実施されました。ロックダウンでは、学校も休校となったため、インフルエンザに罹る割合が多い子どもが通う学校の閉鎖はインフルエンザの流行拡大の機会を奪うことに繋がり、結果としてインフルエンザの流行の減少の要因の1つになったのではないかと、国立感染症研究所は報告しています。
昨年の秋頃には、アメリカ疾病予防センター(CDC)は、「今シーズンの冬はインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスのどちらもが流行する可能性が高いと考えている。」と警告していましたが、今シーズンの北半球におけるインフルエンザの報告数は例年よりも極端に少ないのが現状です。
私自身、今シーズンはインフルエンザ陽性の患者さんにはお会いしていません。勤務するクリニックでも昨年の11月ごろに、1例陽性を認めただけです。(ちなみに、その1例は、インフルエンザ迅速検査も新型コロナウイルス抗原検査のどちらも陽性でした。中国武漢の同済病院から、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時感染が報告されていますが、まさに同時感染をしていた症例でした。)
マスクの着用、手洗い、アルコール消毒、密を避ける、ソーシャルディスタンスなど様々な感染予防対策は、インフルエンザウイルス感染予防にも功を奏したとは思うのですが、要因の大きな1つとして、世界をまたにかけた人々の往来がストップしたことが挙げられると私は考えています。
アメリカ国立衛生研究所のBloom-Feshbach氏らは、世界137か所の検査室で確認されたインフルエンザの季節的・地理的変動を確認したところ、温暖な地域では冬季に一貫してピークに達しましたが、東南アジアの熱帯地域では半年ごとに頻繁に発生していること、さらにいくつかの温帯地域では、冬と夏にインフルエンザのピークがあったことがわかったと2013年に報告しています。一昨年のシーズンは、日本でも、東南アジアと同様に亜熱帯に属している沖縄では、夏にインフルエンザが流行しました。