画家が頭空っぽになる瞬間は宇宙とつながっています。宇宙=神です。だけど頭空っぽというのはそう誰でもできません。現代美術の最先端を走るのはコンセプチュアルアート(観念芸術)です。頭をとことん使ったインテリ・アートです。僕はこのような知性派のアーティストではないので、逆に頭を空っぽにして、アホ状態になるのを待っているんです。頭で考えたり、努力したりするのは面倒臭いので、アホ待ちです。すると、あのピカッが来るのです。このピカッは核ではありませんよ。インスピレーションの源泉の宇宙だったり神だったりするのですが、中にはアホな神もいるので用心しなきゃ。僕のような横着人間は、アホな神でもいいから、彼等(かれら)からのインスピレーションを受けるためにいつも点滴の針を指先(さ)きに刺して、ピカッを待っているのです。ソラ来タ! と感じると指先きがピクピクと動きます。加齢と共に欲と名のつくものはどこかに消えてしまいます。滝に打たれたり、坐禅をしなくても、自然に欲が取れていくんじゃないでしょうか。だから下手でもOKです。買物には興味ないし、もともとグルメではないし、眠りたい欲ぐらいです。ではおやすみなさい。
■瀬戸内寂聴「オテンバのハアちゃん、数え百歳に!!」
ヨコオさん
あっという間に今年も六日になりました。年と共に、時間の過ぎるのが速くなり、うろうろしてしまいます。
私はこの正月で、何と数え百歳になったのですよ。「百歳のおばあさん」です。まさかねえ、町内一オテンバのハアちゃんが、百まで生きるなんて、世の中には何がおこるかわかりませんね。
私の生まれる前、うちには父の母、つまり私の祖母が、父を頼って来て、わが家族と一緒に住んでいたそうです。父の上に二人の兄がいたのですが、祖母は父がお気に入りで、上の二人の息子の家より一番貧乏な父の家が好きだったようです。
父とはちがい、庄屋の娘として何不自由なく育った母が、早く生母に死なれ、亡母の妹の叔母の世話で、彼女の借家に棲(す)んでいた指物(さしもの)職人の父の嫁にさせられてしまったそうです。