東尾修東尾修
コロナ禍の影響で、無観客で行われた昨年のオープン戦=2020年2月、ナゴヤドーム (c)朝日新聞社コロナ禍の影響で、無観客で行われた昨年のオープン戦=2020年2月、ナゴヤドーム (c)朝日新聞社
 西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、緊急事態宣言が発令される前に、コロナ禍でのプロ野球のあり方について言及した。

【写真】コロナ禍の影響で、無観客で行われた昨年のオープン戦

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 首都圏の1都3県への「緊急事態宣言」発令の論議が新年早々、我々にのしかかった。連日のように過去最多が更新される新型コロナウイルスの感染者数、さらに重症患者さんの増加と心痛める話題ばかりである。

 前回の緊急事態宣言時にも、自分がかからない努力をどれだけできるかという点で国民の方々からいろいろな意見が出た。私自身もしっかりと受け止めないといけない。古い人間は、どうしてもメールやLINEの文字のやりとりだけでなく、対面で話をしたいと思うことはあるが、そこは我慢すべき時だと思う。

 野球界もしっかりとした対応を求められる。果たして緊急事態宣言が出た地域の住民が、キャンプ地の沖縄、宮崎へと行くことは可能なのか。行く場合でも、検査を含めた万全な状態を期して出発しなければならない。我々野球界OBもキャンプ視察は行ってはいけない状況かもしれない。自治体、保健所との密接な連携が必要になる。

 すでに1月に入って、PCR検査で陽性となった選手が発表されている。新人選手のコロナ感染の例も発表された。各球団とも今月10日前後から新人合同自主トレとなるが、コロナ対策をいま一度確認し、スタートを切っているはずだ。そこで問題が生じれば、キャンプの構想も崩れてしまう。

 2月にキャンプという形をとれたとして、どういった練習方法で行うか。これは首脳陣の頭を悩ませる。1カ所に全員がそろってランニング……などといった形はなかなかとれないであろう。本来ならば、1年間戦うための野球の技術、体力、チームプレーを磨く場であるが、コロナ感染となれば、すべてが停滞してしまう。宿舎での感染防止策を含めて、神経もすり減らすことになる。

 大規模イベントが開幕設定されている3月下旬の時点で開催できるかは不透明である。そんな中でトレーニングを積む必要がある選手は、酷な状況だ。

 
 じゃあ、やめればいいじゃないかという意見も当然出てくるだろう。だが、そういう声も踏まえながらも、野球界は今できる最大限の努力を見せてもらいたいというのが私の考えだ。昨年、あらゆるプロスポーツが停滞する中、先陣を切って6月19日に開幕し、1年間を乗り切った。「ウィズコロナ」の時代にプロスポーツがどうあるべきか、その模範となってもらいたいと、野球界に身を置いた一人として願っている。今はただ、それが許される状況であってほしいと願う。

 昨年2月のキャンプは各球団ともにこなせた。その貯金もあるから、開幕が3カ月遅れても対応できた部分はあろう。しかし、今年はもっと厳しい。選手個々のコンディションにも大きな差が生まれるであろう。昨年以上に選手の起用法にも気を配る必要が出てくる。

 プロ野球の斉藤惇コミッショナーは「コロナ後の世界を頭に入れないと、今まで通りにはいかない」と仕事始めのあいさつで語ったという。国民的娯楽としての責任をどう果たすか。新年早々だが、野球界全体の覚悟が求められる。当事者があきらめてはいけない。

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝

週刊朝日  2021年1月22日号