沖縄の海を背景に、赤Tシャツと赤ふんどし姿で時事問題にツッコミを入れる。そんな動画で人気のお笑い芸人・せやろがいおじさんこと、榎森耕助さん(33)の原点は、世の中の出来事に関心を持たなかった大学時代にある。
出身は奈良県天理市。海に囲まれた環境に憧れていた。国語の教員になりたかったこともあり、育成カリキュラムが充実している沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科に進んだ。
「『沖縄で一人暮らし、楽しそう』というぐらいの軽薄なノリでした」
1年生のとき、発表形式の講義を受けて人前で表現する楽しさに目覚め、お笑い事務所に所属した。大学は、辺野古移設問題の出発点である米軍普天間飛行場に隣接していた。だが、勉強と芸人活動の両立に精いっぱい。教員免許の取得に必要な単位はそろわず、政治・社会問題に興味を向ける余裕もなかった。
転機は、卒業後の25歳のとき。評論家・荻上チキさんのラジオ番組を聴いて時事問題に少しずつ興味を持つようになった。2017年から今のスタイルに。学生時代の反省も生かすようになる。
「大学時代は調べる機会をたくさん与えてもらったものの、楽しいことしか追いかけられなかった。当時広げられなかった分のアンテナも張る姿勢で動画制作に臨むようになりました」
昨年、初の単著『せやろがい!ではおさまらない』(ワニブックス)も刊行した。学ぶことの魅力を知った今、こう考える。
「『知らない』というのは、ある意味とても怖いことです。例えば、昨年、菅(義偉)首相が誕生したとき、彼を『パンケーキおじさん』と呼ぶ報道が目立ちました。親しみを持たせ、政権の具体的な問題点には踏み込まないことに危うさを感じ、動画でその点を訴えました。疑問を持ったらまず調べる。その行為は、最終的に自分を守ることにもつながると思っています」
(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2021年1月22日号