黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、ネットフリックス、リモート会議などについて。

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 正月、息子が来て、お節(せち)を食った。息子は麻雀をしないし、これといった話題もない。ネットで映画を見るか、と訊(き)いたら、ネットフリックスとアマゾンプライムに加入しているといった。

「うちのテレビもネットフリックスが見られるはずなんやけど、手続きのしかたが分からんのや」「そんなん、簡単や」「ほな、契約してくれ」

 息子にリモコンを渡すと、ゆるゆる操作をしていたが、「父さん、クレジットカードは」「持ってへん」いいつつ、よめはんの顔を見た。

「あかんで。わたしの名前で申し込んだら、わたしの口座から引き落とされるんやろ」よめはん、抗(あらが)う。

「頼む。お願いやから契約して」「月にいくらよ」「二千円ほどや」「ほな、二万四千円払うて。一年分」「分かった。ひと月ごとに払う」いったが、その気はない。どうせ、よめはんは忘れる。

 申込(もうしこ)みはつつがなく終了し、息子が帰ったあと、前々から見たかったマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』を見た。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテルと、好きな俳優がそろっている。丁寧に作られた、いい映画だったが、三時間半もの上映時間は、わたしには長かった。スコセッシのギャング映画なら『グッドフェローズ』だろう。

 ついでにいうと、去年、見た映画のベストは『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』だった。

 ドイツのシリアルキラーをモデルにした実話ふうの映画だが、出てくる俳優がみんな不気味かつ不細工でユーモラス。ホンカはアルコール依存症の労働者で、毎夜、アパート近くの安酒場で呷(あお)るように酒を飲み、店にたむろする中年、老年の娼婦(しょうふ)を拾ってアパートに帰る。ほとんど衝動的に四人の娼婦を殺して、死体をクロゼットに隠す。部屋には腐臭が漂い、死体にわいたウジが、床の隙間から階下で食事をしている家族のスープ皿に落ちた場面は笑ってしまった。そう、リアリティーを突きつめるとコメディーになる──。

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