話は変わるが、今月末に予定されていた某文学賞の選考会がオンライン開催になった。自宅のパソコンをとおしたリモート会議にしたいと編集者にいわれて、以前買ったままだったカメラレンズつきのデスクトップパソコンをクロゼットから出してきて仕事部屋のテーブルにおいたのはいいが、そのリモート会議とやらの接続方法がまるで分からない。編集者のいう“ズーム”や“スカイプ”の意味が分からず、“ミーティングID”“パスコード”にいたっては異世界の言語だと思って早々に接続を諦めた。
「とりあえず、テニス仲間のパソコンマスターに連絡します。そのマスターに接続を頼むので、日時を指定してください」
そんなことで試験接続の日が決まった。あとは、その日にパソコンマスターを迎えに行けばいい。
ほっとして、ネットフリックスの映画を見ていたら、よめはんが来た。「なにしてるの」「ほっこりしてるんや」「暇そうやね」「麻雀のお誘いですか」「ちがいます。初日と××日、会場に来て欲しいねん」「はいはい、仰せのとおりに」
よめはんは近々、阿倍野のデパートの美術画廊で個展をする。案内状を送ったのは芸大の友人も多いから、わたしも久々に彼らの顔を見て近況を聞きたい。よめはんの展覧会のたびに、みんな齢(とし)を食うたな、と思いを新たにするのだ。
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する
※週刊朝日 2021年1月29日号