転機は、コロナ禍だった。卓球では毎月のように国際大会が続き、絶え間なく戦うのが常だった。コロナの影響で試合がなくなり、競技人生初という練習ばかりの日々に。自分自身と向き合うきっかけができた。
■ベテランたちへエール
「まだできるよ」「可能性を信じよう」
コーチやトレーナー、家族からかけられた言葉が、悲観的になっていた石川を温かく包んだ。
「『できるんだ』というマインドに変わったというか。自分を信じないとダメだよなって」
今年1月の全日本決勝。強い心がよみがえった。世界ランク9位の石川に対し、相手の伊藤は3位。スピードに圧倒され、第4ゲームを終えてゲームカウント1─3と追い込まれた。
だが、「『もっと思い切りやりなよ』って言い聞かせた」。粘り強くコースを突き、巻き返す。最終第7ゲームは9─5から4連続で失点。得意のフォアハンドでチャンスボールを2度ミスしたが、心は折れない。「まだ、ここから」。最後は、あえてそのフォアを思い切り振り抜き、けりをつけた。
日本卓球協会の宮崎義仁強化本部長は石川の戦いぶりに、こううなった。
「相手に打たせながら、コースを突き、打つ時はフルスイングで一発で打ち抜く。卓球を知り尽くしている。裏には、本当に涙ぐましい努力があるはず。敬意を表したい」
石川が言う。
「いろんな人が私を信じてくれた。だから、昔は気になっていた部分も、今は気にならない」
若手の突き上げにあい、思い悩む世の「ベテラン」たちへ、こんなエールも送った。
「同じ思いをしている人に勇気を届けたい。まだやれる、やりたいと思っています」
集大成の東京五輪は、半年後に迫っている。27歳。石川の全盛期は、ここから始まる。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央)
※AERA 2021年2月1日号