「ノラは正義を信じて闘いつつ、非常に過剰な面がある。彼女は映画『エリン・ブロコビッチ』の主人公のような存在とも言えます。最初は応援すべき人物が入れ込むあまり過剰になっていく。同時にノラの過剰さはフランスの世論も表しています。事件をよく知らないのに『ジャックは有罪だ』と考え、暴走した。自分が正義と信じることが果たして正しいのか。その危険性を描きたかった」

 フランスの司法制度の問題点もあぶり出す。

「『疑わしきは罰せず』は大原則ですが、フランスでは完全に機能しているとは言えません。実は遺体なき殺人事件はほかにも2件ほどあり、ひとつでは容疑者とされた夫が有罪になりました」

 人が人を裁くことの難しさ、そして人は結局自分の信じるものを見たいのだ、という根源的な危うさに胸を突かれた。

◎「私は確信する」
事件を独自に調べるノラは無罪を確信するが──。
2月12日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「エリン・ブロコビッチ」

「私は確信する」には映画に絡むキーワードが登場する。裁判シーンで裁判長がヒッチコック監督の「バルカン超特急」と「間違えられた男」に言及するが、これもヴィギエ事件の裁判で実際に起きたことだとランボー監督は言う。

「裁判長も映画好きでちょっと張り合っていた感じでした。でも実際のジャックはヒッチコックよりウェスタンやミュージカルが好きなんですよ」

 どの作品もおすすめだが、ここは監督がノラに重ねた「エリン・ブロコビッチ」(2000年)を推したい。1993年、アメリカの大手企業PG&Eから3億3300万ドルの和解金を勝ち取った実在の人物をスティーブン・ソダーバーグ監督が描く痛快作だ。

 3人の子を抱えたシングルマザーのエリン(ジュリア・ロバーツ)は弁護士事務所で押しかけバイトを始める。そこで彼女は偶然、ある工場の周辺住民が一様に健康被害を訴えていることを知り──。

 法律の知識はなくとも使命感に燃え、工場の悪事を暴こうと突き進むエリン。その姿はたしかに危うさも秘めているが、本作ではあくまでも明るく彼女の正義は肯定される。そこには米仏の司法システムの違いも潜んでいるようだ。

◎「エリン・ブロコビッチ」
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
価格1410円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2021年2月8日号