■相続
相続が争族にならぬよう、夫婦それぞれ遺言書を作成しておくべきと前出の板倉さんはアドバイスする。それがなかったために大変な思いをした妻がいる。
60代で急死した夫の妻・A子さんは、家じゅうを探したが遺言書は見当たらなかった。子どもはいない。
「だいじょうぶ。死後の財産は全部妻に行く」
夫はそう思い込んでいた。だが……。
夫には腹違いのきょうだいが数人いたのだ。
子どもがいない夫婦のケースでは、きょうだいも相続人に該当する。異母きょうだいの中には亡くなっていた人もいたため、その子どもに相続権が渡った(代襲相続)。
「結局、8人もの相続人がいたのです。A子さんは大変でした。弁護士を通して全員にお金を渡して相続分の譲渡を依頼して解決しましたが、ご主人が紙切れ一枚にでも『私の全財産は妻に相続させる』と書いていればこんなに大変なことにはならなかったでしょう」
板倉さんは「このようなパターンは多い」と話す。子どもがいない夫婦は、今のうちから遺言書を書いておくべきだ。
「遺言書を作成するだけでは不十分で、(認知症などでの判断能力の低下に備え)委任契約・任意後見契約も事前に結んでおくのが良いと思います」
こう話すのは相続コンサルタントの一橋香織さんだ。こんな事例もある。
1億円近い現金を夫の公正証書遺言どおりに相続した女性が、夫を失った直後に認知症を発症してしまった。子どもがいなかったため、女性のきょうだいが女性の通帳を持ち出し、女性にかわって女性の預金管理をするようになり、認知症になったその女性を町はずれの安価な老人ホームに入れてしまった。その女性の面倒を最後まで見るつもりだった亡き夫側の甥はこう嘆く。
「叔父夫婦とは実の親子のような関係でした。そんな叔父から常々『自分が死んだら、遺した金で妻の面倒を見てくれ』と言われていたのに」
一橋さんは言う。
「この場合、甥御さんを妻の任意後見人にしていれば、全く問題がなかったはず」