2011年、ISSに165日間滞在したときの模様。上腕と足首の血圧を測定し、地上と微小重力での血圧値の差を比べる宇宙医学実験を行った。(C)JAXA
2011年、ISSに165日間滞在したときの模様。上腕と足首の血圧を測定し、地上と微小重力での血圧値の差を比べる宇宙医学実験を行った。(C)JAXA
古川 聡(ふるかわ・さとし)/ JAXA 宇宙医学生物学研究グループ長、宇宙飛行士。1989 年東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院麻酔科、外科に10年勤務。2001年に宇宙飛行士として認定され、11年第28 次/第29次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてISSに165日間滞在した。(C)JAXA
古川 聡(ふるかわ・さとし)/ JAXA 宇宙医学生物学研究グループ長、宇宙飛行士。1989 年東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院麻酔科、外科に10年勤務。2001年に宇宙飛行士として認定され、11年第28 次/第29次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてISSに165日間滞在した。(C)JAXA

 医師としての知識や資格を病院の外でも生かし、活躍するケースが増えてきている。現在発売中の『医者と医学部がわかる2021』では、新しい医師の在り方やキャリアを考え、前進し続ける医師を取材した。

【写真】宇宙医学の研究をする古川聡宇宙飛行士はこちら

 その中でも、宇宙医学の研究をする古川聡宇宙飛行士の「多様化する医師の在り方」について、お届けする。

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 約2年後に予定されている、自身2度目の宇宙飛行。古川聡宇宙飛行士は現在の心境を学生時代に打ち込んだ野球にたとえ、「バッターボックスに入る日に備えてベンチ裏で素振りをしているような気持ちです」と語る。

 宇宙飛行士として、医師として、担う重要な役割の一つが宇宙医学の研究だ。

 宇宙医学の目的は「宇宙空間で人の健康を保つこと」。地上の医学同様、「臨床医学」と「研究」があり、臨床医学は宇宙飛行をする人の健康を維持することが目的だ。現時点で、その対象は職業宇宙飛行士になるが、将来的には宇宙旅行を楽しむ一般客も含まれる。

「宇宙医学の研究は長時間続く無重力という特殊な環境を利用して、地上の生活をよりよくするための方法を見つけることが広義の目的です。狭義の目的は、宇宙滞在時のさまざまな課題、例えば無重力による骨格筋の萎縮や閉鎖環境による生体リズムの不調、睡眠障害、地上の数十倍に及ぶ放射線被曝などを解決すること。これらは、月や火星の有人探査が始まるまでに解決すべき課題でもあります」

 古川宇宙飛行士が初めて宇宙へ飛び立った2011年、ISS(国際宇宙ステーション)長期滞在中に、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療法に関する実験を行った。14年以降はJAXA宇宙医学生物学研究グループ長という立場で研究の推進、サポートに携わっている。

「人間は長期間無重力の空間に滞在すると骨量が減少し、骨粗鬆症に似た状態になることがあります。飛行前、飛行中、飛行後の血液を分析することで骨粗鬆症に関連するタンパク質を見つけ、新たな治療法やマーカーの開発に役立てる研究などが進行しています」

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