とりわけLGBTQの「T」、トランスジェンダーに対しては、国内のネット上では熾烈な誹謗中傷の嵐が吹き荒れる。いずれも発信元は、トランスジェンダー排除をうたうラディカルフェミニスト(TERF、Trans−exclusionary radical feminist)で、「LGBTQへの理解が進んでいる」という一般の認識とは裏腹に、むしろここ数年、国内では強くなっている印象がある。
レスリーは嘆く。
「ナンセンス。そういう人たちは、自分で自分を苦しめることになってしまうんじゃないかな。今は、多様性を受け容れるのが当たり前の時代でしょ!」
■二人でシェアする喜び
パートナーシップ制度が始まってから、5年が経った。
「なぜ、まだ証明書ができない街があるの?」。そう言うレスリーに、ジョシュアは「言葉だけじゃなく行動に移せば、日本はもっと早く変えられると思います。一歩ずつ。人として愛する気持ちを皆、平等にね」と言葉をつないだ。
コロナ禍で二人は巣ごもり生活を送っている。双方の祖国にいる家族が心配だが、一方で、二人で過ごす時間が飛躍的に増えた。レスリーは生まれて初めて、自炊ができるようになった。
「一昨日は『牛すきやき丼』をつくったよ。ジョシュアは野菜が好きだから、サラダのレシピもいっぱい教えてもらったんだ」
10年後、15年後の二人の未来を語り合う機会も増えた。
17歳差に価値観のズレを感じることはないのか。意地悪な質問をぶつけてみると、レスリーはこう教えてくれた。
「僕が過ごしてきた時代のなかでキュンと来た人や音楽、映画と、彼のそれとは違う。だから必ず、二人でシェアしていこうと思っているんだ」
たとえば音楽。レスリーは来日のきっかけになったほど大好きなユーミンを、ジョシュアは米国アーティストLizzoを、互いに教え合い、愛情を2倍に増やしていく。
レスリーが今、深い関心を寄せている存在は、ルース・ベイダー・ギンズバーグだ。1933年生まれの米国の法律家で、性差別の撤廃を求めるリベラル派判事として、米国で大きな影響力を持ち、昨年9月に亡くなった。レスリーは言う。
「人間の平等を本気で追求してきた人だとジョシュアから教わった。僕、この人を知らなかった。新しいインスピレーションを受けて、新たな『メンター』を見つけたんだ」