阪神・梅野隆太郎 (c)朝日新聞社
阪神・梅野隆太郎 (c)朝日新聞社

 キャッチャーの役割に変化が生まれている。

『守備の要』としての必要性は薄れつつあり、『打てる捕手』としての需要が増している。

 広島、巨人などで活躍した西山秀二氏が、日本球界における捕手の役割についての流れを語ってくれた。

「個より組織での捕手(=バッテリー)力に差があった」

 西山氏がまず例に挙げたのは昨年の日本シリーズ。ソフトバンクが4連勝で巨人を下した要因の1つは、個ではなくチーム全体での捕手力(=バッテリー力)、守備力で戦ったことだという。

「配球をチーム全体で決め、それを捕手・甲斐拓也が完遂した。他の捕手が出ても、同じような配球をしたはず。第1戦でエース・千賀滉大が登板しても、普段と異なる短期決戦用の攻め方をした。(勝敗を分けたのは)巨人の大城卓三と甲斐の捕手力の差?という声もあるが、そうではない。巨人も短期決戦用の戦い方をすれば勝敗も分からなかった」

「大城、甲斐はともに勝負強い『打てる捕手』。2人の起用は普段通りだったが、そこから先で差がついた。シーズン中は総合力で戦うから、捕手個人の守備力で劣っても他でカバーでき、最後にチームがトップにいれば良い。しかし短期決戦ではチーム戦術の徹底が必要で、レギュラーシーズンとは全く異なる」

 西山氏自身がプレーした90年前後、捕手には守備面が重視され、特に必要とされたのが配球だった。準備を欠かさず相手を研究し、投手をリードすることが結果にもつながる。守備面での信頼が得られなければ捕手のレギュラー奪取は難しかった。『抑えれば投手の手柄、打たれれば捕手の責任』という時代だ。

「近年は捕手守備の基本ができれば良い。捕球ができる。ワンバウンドを止める。動ける。送球も極端な弱肩やコントロールが悪くなければ大丈夫。リードもメチャクチャなことをしなければ良い。守備面でのハードルが下がり、打つことの方が求められる」

「打たれた時は配球を周囲からボロカスに言われ、悔しいから覚えていった。古田敦也さんなど野村克也監督にベンチでいつも言われていた。今は試合で自ら覚える流れに変化しつつある。コーチもそこまで細かいことは言わない。配球は結果論だから、自分で経験しないとモノにならないということ」

 ヤクルト時代の野村監督がベンチ内で古田を自分の前に座らせ、捕手としての帝王学を伝えたのは有名。しかし時代とともに選手の考え方も変化、育成方法も変えざるを得なくなっている。また投手の質も格段に上がり、球威で打者を翻弄できるようにもなっている。以前のような細かな配球は重視しなくなりつつある。

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投手のレベル向上で配球は…