協会の発起人は、兵庫県生まれの吉澤武彦さん(43)。震災後まもなく阪神・淡路大震災の支援経験がある知人にアドバイスを受け、関西の会社に寄付してもらった中古車1台を、石巻市の万石浦(まんごくうら)仮設住宅に持ち込んだ。同市では津波で6万台の車が流され、どの仮設住宅でも交通の不便を訴える声が渦巻いていた。
「困っている人がいるなら手伝うよ」
一人暮らしだった増田敬さん(69)がドライバー役を申し出た。同じ仮設の女性らを車で20分ほど離れた病院に送り迎えした。するとドライバー役を申し出る人が数人現れた。「ついでに自治会も作ろうか」。同市内の仮設住宅にできた事実上初めての自治会で、のちに仮設住宅の自治会を連合した「石巻じちれん」につながる。最大時で約4千世帯。増田さんが会長となり、いまも後を絶たない「孤独死」を防ぐ相談活動を続けている。
日本カーシェアリング協会は石巻市以外でも、鳥取県や岡山県など8地域で活動を展開している。こうした全国に広がる活動を支えているのが、カーシェア会の「応援団」だ。車の寄付は10年間で延べ約530台。自動車販売会社などの企業と個人寄付が半々だ。
横浜市の長田聖次さん(73)、美智子さん(73)夫妻は、8年前の冬の朝、ラジオで「(震災で)車を流されて、病院通いに困っています」との訴えを聞いた。その声の主こそ、カーシェアリング協会の吉澤さん。1カ月後、長田さん夫婦は、買い替え予定だった長女の車に乗って石巻市に駆け付けた。美智子さんは、「石巻市内はまだ泥だらけ。つぶれた車が積み上がっていました」と振り返る。以来、中古車市場で見つけた格安軽自動車や友人の1台も含め6台を寄付した。
■世界が注視「石巻モデル」過疎が進む地域で参考に
この「石巻モデル」は、ヨーロッパでも評判だ。ウィーン工科大学交通学研究所の柴山多佳児(たける)研究員は言う。
「コミュニティーの構築・維持に生かしている点が、世界的に見ても非常にユニークです」
協同的モビリティーと呼ばれ、オーストリアやドイツでも、類似のカーシェアの仕組みが作られ始めている。17年の協同的モビリティー国際会議で、日本カーシェアリング協会が表彰された。柴山さんが続ける。
「欧州におけるアルプスの中山間地や地中海の島々のような高齢化・過疎化の問題を抱える地方部では参考になります」
(ジャーナリスト・菅沼栄一郎)
※AERA 2021年3月1日号より抜粋