今回選んだ井上輝子、森山至貴の本はそれぞれ、女性学やLGBTについて最低限押さえておきたい知識が学べるもの。一方、白岩玄、清田隆之の2冊は文学/エッセーで取っつきやすい内容だ。「自分なりの問題意識を持って、それを自然な形で物語にしている。男女のあり方がどうあり得るのかの提言は学問にはできません。文学だからなせること。説教臭くないというか、自然体な気負いのなさもいい」

『新・女性学への招待 変わる/変わらない女の一生』(有斐閣選書)井上輝子
「井上先生は和光大学で1974年に初めて女性学の講座を行った先生。70年代から女性学が蓄積してきた知見や問いの立て方がコンパクトにわかりやすくまとめられています。どんな議論がなされてきたのか経緯がよくわかる。このテーマに関心があるなら、これを読んでいないのはもったいない」

『たてがみを捨てたライオンたち』(集英社)白岩玄
「この小説は登場人物を複数出すことで、男性性にも多様性があってそれぞれが生きづらさに直面する様子を描いています。その上で、単にいろんな男性がいますよ、ということではなく、全体として社会全体における男らしさの問題がどういう現状にあるのかという問いかけになっているのが素晴らしい」

『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)清田隆之
恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田さんによるエッセー集。「清田さんは、男性の加害者性に対して正面から取り組んでいる。男性が男性のことを論じるのは身につまされる作業。自分が正解を知っているというスタンスではなく、答えが出ていない問題を言語化して自分なりに解釈しようとしている」

『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)森山至貴
社会学の研究者がLGBTを手がかりに多様な性のあり方を解説する。「2017年に出た本ですが、今でも最低限の知識が普及しているようには思えない。ジェンダーを語るときにセクシュアリティーの視点は欠かせない。何を知っていれば他者を傷つけないで済むのか。その知識を持っておくことは大事」

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