鳥取では、近年発生する自然災害で避難の重要性が再認識される一方、市町村が発する避難情報が住民の行動に結びついていないことが課題だった。
「住民に避難を考えてもらう具体的な仕組みを考えていたとき、知ったのが避難スイッチでした」(県危機管理政策課の原耕平さん)
参加した山野敬介さん(62)は言う。
「なるほどと思いました。お年寄りが多い地域なので、『スイッチ』として声かけの仕組みづくりをしました」
何を「スイッチ」にすればいいのか。矢守教授は(1)情報、(2)身近な異変、(3)声かけの三つを挙げる。(1)は河川情報、避難指示や勧告、大雨警報や特別警報など。(2)は、普段見ている川の色の変化など。(3)は、隣人が「もう逃げよう」と誘ってくれた、などだ。
■被害がないときの避難は「空振り」でなく「素振り」
「大切なのは『避難スイッチ』をあらかじめ決めておくこと。避難するにはエネルギーが必要ですから、スイッチが入ったら絶対に避難すると決めておくことが大切です。一人で決められない人も、地域単位で事前に避難方針を立てておくと迷いません」(矢守教授)
2017年の九州北部豪雨で大きな被害が出た福岡県朝倉市のある地域では、「小さな川のそばの住宅で浸水が始まった時」を地域の避難スイッチに設定しており、全員無事に避難できた。
だが、避難しても被害が出ないことが続くと避難しなくなるケースは少なくない。矢守教授は、予測に百発百中はあり得ないとしてこう説く。
「実際に避難すると、例えば避難場所まで前回は15分だったのに雨が降っていたから30分かかったとか、いろいろなことがわかります。被害がなかったときの避難は『空振り』ではなく、本番に備える『素振り』。繰り返すことで、いざという時に命を守れます」
(編集部・川口穣、野村昌二)
※AERA 2021年3月8日号より抜粋