とはいえ、渡辺が演じた伊達政宗にはもともと面白い逸話が多く、ある意味「ワンマン」で引っ張っていけるパワーがあった。そのためか、バディ的な構図にあまり頼らずに済んだが、ある大物俳優との初共演が注目されることに。豊臣秀吉を演じた勝新太郎だ。
渡辺がクランクイン前にあいさつに行くと、勝は「ああ、小田原で会おう」とだけ言い、それから4カ月、接点を持たなかったという。小田原攻めにおける秀吉と政宗の初対面を、役者同士としても「初顔合わせ」にすることで緊張感を出そうという勝のアイデアだ。
このエピソードを明かした渡辺は、当時の胸中をこう振り返った。
「映画『座頭市』などで第一線を走っていた勝さんは、当時の僕にとって計り知れない人でした。まさに政宗にとっての秀吉。軽々しく話す関係ではなかった。ずっとドキドキするような“ライブ感”の中で対面していたのを覚えています」(サンスポ・コム)
また、最後の収録では初めて部屋に呼ばれ「主役の極意」を伝授されたという。こんなかたちの「バディ」もあるわけだ。
今回の「青天」で草なぎが求められるのは「政宗」における勝のような要素も併せ持つバディだろう。では、彼がそれを担えるかというと、演出担当者によるこんな証言がある。
「徳川慶喜っていうのは、何考えてるかわかんないんだけど(略)とにかく人を異常に惹きつけてしまう、特別な人みたいなね、神みたいな。演出でどう作っていこうか、っていうのがすごく難しい。(略)草なぎさんが入ってきて、パッと見たときに、いわゆるオーラみたいな、えもいわれぬ魅力っていうんですかね。演出とかが届かない領域だから、よかった、草なぎさんが来てくれて」(前出「50ボイス」)
30年にもわたって芸能界の第一線に立ち、修羅場もくぐりぬけてきた男ならではのものがあるのだ。
ただ、草なぎの場合、役者としてはある意味「遅咲き」だった。連ドラの主役を務めたのはSMAPのなかでも最後で、それも「いいひと」(フジテレビ系)という当時のキャラクターイメージをそのまま生かした作品。それが「僕」シリーズなどでの内省的な芝居で演技派としての評価を高め、任侠モノなどにも挑み、最近の主演映画「ミッドナイトスワン」ではトランスジェンダーの役を演じるなど、奥行きも幅も広げてきた。