
元火葬場職員という異色の経歴と、味わいあるトーク力で人気上昇中の怪談師、下駄華緒(げたはなお)。番組やイベントにも出演し、昨秋に立ち上げたYouTube番組「火葬場奇談」の登録者数も急増。火葬場という“非日常”空間で、どんな光景に接してきたのだろうか。
「立ち会う参列者の間で、遺骨の奪い合いなどトラブルはよくあるんです。ホームレスなど身元不明で亡くなった方だと“自称・加〇雄三”とか、『絶対ウソやん』って思う名前もあったり。いろんな人生があるんだなと感じました。ベテランの職員、葬儀屋さんの仕事ぶりからご遺体やご遺族への思いやり、礼儀など、人として教わることも多くありました」
そんな下駄の怪談師デビューは、亀梨和也主演で話題となった映画「事故物件 恐い間取り」の原作者であり、「事故物件住みます芸人」としても知られる松原タニシに誘われたことだった。
「元々ミュージシャンとして活動していて、人前で話す機会も多かったので抵抗はなかったです」
新型コロナウイルスの感染拡大でイベントが縮小されるなか始めたYouTube番組。火葬場にまつわる話が中心なのは、個人的に質問されることが多かったためだ。
「もう死に関することをタブーにしたり、隠したりするような時代じゃないと思いますし、情報がないことで悩んだり気にしたりする人を少しでも減らしたい。好意的な反響も多く、この前は『下駄さんのような人に火葬されたい』というコメントが付いてうれしかったです(笑)」
コロナ禍の葬儀は?
「ご遺体は呼吸をしませんし、感染症対策もコロナ以前から十分にしています。現役の職員たちから聞く限りでは、心理的な負担はまだ少ない。ただ、参列者の数が制限されているので、故人の最期に立ち会えずにつらい思いをされているご遺族は多いようです」
葬儀業界は感染で亡くなった人への対応がまちまちで、「葬儀屋さんによっては高額な葬儀代を設定していることも」と専門家目線で指摘する。
新型コロナの収束後、全国を巡って火葬場について語るイベントを開きたいという下駄。“終活”に関心が高まるご時世、人生の終末と向き合った“おくりびと”の貴重なトークは、今後さらにニーズが増えそうだ。(中将タカノリ)
※週刊朝日 2021年3月12日号