全身に激しい痛みが出る病気「線維筋痛症」。原因不明であるうえ、根治治療はまだ確立されていないという。その症状などについて、ある女性のケースを紹介したい。

 東京都在住の会社員・野原雅美さん(仮名・42歳)は1年前に交通事故に遭い、その直後から右手首に痛みを感じるようになった。手や腕にけがをしたわけではなかったので、初めは以前経験した腱鞘炎(けんしょうえん)がぶり返したのだろうと思った。しかし徐々に痛みは全身に広がっていき、不眠に悩まされるようになった。野原さんはむし歯治療の際、かかりつけの歯科医師に「あごが痛い」「夕方になると全身がケバ立つような痛みに襲われる」「ひざが突っ張って歩きにくい」などの症状を訴えた。すると「線維筋痛症かもしれない」と言われ、東京医科大学医学総合研究所所長の西岡久寿樹医師を紹介された。

 線維筋痛症は全身に激しい痛みが起こる原因不明の病気だ。30代後半~40代前半の女性が発症することが多く、気圧、気温、光などあらゆる外的刺激を痛みとして感じるため、進行すると社会生活が困難になる。多くの病気は痛みを感じる部位に、炎症など痛みを招く原因が存在する。しかし線維筋痛症の場合、血液や画像の検査をしても、とくに異常は見つからない。

「人間のからだを守る反応である“痛み”を過剰に感じるのが線維筋痛症という病気で、2段階のステップがあって発症すると考えています」と西岡医師は話す。

 たとえば、子どものころに親と死別する、転居を繰り返す、入院するなどで受けた精神的・肉体的ストレスがまず患者の中に存在する。それから一定の時間が経過して、さらに外傷、手術、身内の不幸や離婚など、新たなストレスが加わると痛みという形で症状が現れるという。免疫異常や感染症の潜伏期に似ていると、西岡医師は解説する。

「野原さんは統合失調症の病歴があり、現在も精神安定剤を服用中でした。これが潜在的なストレスになり、交通事故という新たなストレスが加わったことで、線維筋痛症が発症したのだと考えられます」

週刊朝日 2013年5月3日・10日号