がんが筋層に届いていない「筋層非浸潤性がん」であれば、TUR-BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)が標準治療になる。TUR-BTは、尿道から内視鏡を挿入し、膀胱内を確認しながらがんを電気メスで切除する方法だ。最大のメリットは、膀胱を温存できること。手術は下半身麻酔でおこない、かかる時間は30分~1時間程度だ。術後は1~2日で退院できる。

■筋層浸潤がんは全摘を選択、ただ温存するケースも

 一方、がんが筋層まで到達している場合は、リンパ節や周辺の臓器に転移する可能性が高く、「膀胱全摘手術」が選択される。筋層非浸潤性がんでもあまりにも多発していたり、大きすぎたりして内視鏡では削り切れない場合、再発を繰り返す場合なども膀胱全摘手術が選択される。

 膀胱全摘手術では、膀胱や骨盤内のリンパ節のほか、男性は前立腺と精嚢、女性は子宮と膣壁の一部、尿道を切除する。さらに膀胱の代わりに尿を排出するための「尿路変向術」も同時に実施する。

 手術時間は8~10時間で、入院期間は2~4週間。大がかりな手術となる。小牧市民病院の上平修医師はこう話す。

「TUR-BTと全摘手術では、からだへの負担とその後のQOL(生活の質)が大きく異なります。TUR-BTなら術後も術前とほぼ同様の排尿ができ、それまでどおりの日常生活を送れます。一方、全摘手術は輸血が必要になるリスクがあり、術後は尿をためる袋をからだにつけるなどするため新しい生活への訓練が必要です。このため、TUR-BTと全摘手術との線引きは難しいところです」

 最近は筋層に浸潤しているがんでも、転移がなければTUR-BTと抗がん剤、放射線治療を組み合わせて全摘を回避する選択肢もある。また、自費診療となるが高濃度の抗がん剤を使用する「血液透析併用バルーン塞栓動脈内抗がん剤投与」と放射線治療を併用して膀胱を温存し、転移を予防する方法も一部の病院でおこなわれ、良好な治療成績が報告されている。

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