石井裕也監督(撮影/写真部・掛祥葉子)
石井裕也監督(撮影/写真部・掛祥葉子)
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映画「茜色に焼かれる」5月21日TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー/(c)2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
映画「茜色に焼かれる」5月21日TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー/(c)2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

 2020年、新作映画「生きちゃった」を公開し、初のエッセイ集『映画演出・個人的研究課題』を刊行した石井裕也監督。コロナ禍の逆風にさらされながら、2021年も「アジアの天使」「茜色に焼かれる」と2本の新作映画が公開目前であり、変わりなく精力的な活動を続けている。しかし、エッセイ集の章立てを第1部(2018、2019年)と第2部(2020年)にわざわざ峻別しているように、コロナ前と後とで石井監督の、映画づくりへの考え方は大きく変化したという。

「『生きちゃった』の製作年をどうするかに当たって、ちょっと議論になったことがありました。映画の製作は年をまたぐことが多いのですが、どの時点が製作年なのかという基準がないんです。配給会社としては“最新作”ということを印象づけるために、「2020年」にしたいというわけです。でも、この映画の製作がコロナ前の2019年だったのか、コロナ禍中の2020年なのかでは、全然意味合いが違ってくるじゃないですか。だから僕は2019年に作ったということを明確にしておきたかった。これは、すごく重要なことなのです」

「アジアの天使」は、コロナ禍が広がり始めた2020年2~3月に韓国で撮影された。この時の撮影の様子について、石井監督は『映画演出・個人的研究課題』に「一般の通行人が全員マスクをしていたので、彼らがフレームに映り込む度にNGを出さなければならず、イライラした場面は何度もあった」と記している。そして「茜色に焼かれる」のほうは、コロナ禍が収まらない8~9月の撮影だった。この2本の間に撮影方法の変化があった。

「屋外の撮影では、通行人がみんなマスクをしているので、映画の登場人物だけがマスクをしていないと、もはやおかしいんです。マスクを排除しようすると、大量のエキストラを集めて、人の通行を止めないといけない。むしろノーマスクの人を歩かせるほうが、違和感があるわけです。今、街で映画を撮ろうとすると、必然的にマスクありの映画になるんですよ。マスクについてはいろいろと思うところがありますね。本来は感染予防だったはずのものですが、今となってはあり方が変わってきていますよね。自己を晒さなくてもいいのは楽だし、他人の顔面を見なくてもいいのも楽です。ひとつ言えるのは、マスクの下で人間の内面はどんどん荒んでいってるということです」

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