3月8日の国際女性デーに、女性をたたえるニュースが流れたという北朝鮮。現実には男尊女卑の風潮はまだ強いが、少しずつ変化の兆しもみられていた。しかし、米朝協議などを経て猛烈な締め付けに転じている。北朝鮮の女性をめぐる環境について取り上げた、AERA 2021年3月29日号の記事を紹介する。
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「男性は台所に入らない」という明治時代のような発想も根強く残っている。00年代に訪朝した韓国政府当局者が、北朝鮮の役人と会食した。「休日には何をして過ごしているのか」と聞かれ、「洗濯や皿洗いを手伝っている」と答えると、北朝鮮側の出席者は目を丸くして、「そんなウソをつくもんじゃない」と言い返したという。
中朝国境地帯を流れる鴨緑江や豆満江(トマンガン)越しに、北朝鮮側を撮影している韓国・東亜(トンア)大学の姜東完(カンドンワン)教授によれば、北朝鮮で洗濯をしているのは、例外なく女性だという。村落には水道がなく、共同の井戸のそばか、なければ鴨緑江などの川岸で洗濯をする。冬季には零下30度まで気温が下がるなか、ビニール手袋をはめ、木づちを使って洗濯物を洗っている。
まるで封建時代のような北朝鮮でも、わずかではあるが、女性の地位が改善される兆しが生まれている。
その源流は、90年代に起きた「苦難の行軍」と呼ばれる食糧難にある。北朝鮮の食糧配給システムは崩壊し、数十万人とも200万人とも言われる人が死亡したとされる。このとき、食糧を求めて必死に家庭を守ったのが女性たちだった。脱北者の一人は「男性はプライドが高いから、食糧を分けて下さいなどとは言えなかった」と語る。
■女性がコメ代を稼いだ
苦難の行軍を契機に、北朝鮮の一部に市場経済が生まれた。国定ではなく、需給に応じた物価は高騰した。ほとんどの家庭で世帯主の男性が勤める国営企業や党組織の月給は5千ウォン(約606円)程度なのに対し、コメ1キロが5千ウォンを超えることも珍しくなくなった。夫の給料だけでは食べていけないため、女性たちが市場で働き、家計を支えた。