性暴力の苦しみは、被害に遭った時だけでは終わらない。「その後」の苦しみが続く。性被害者がここまで苦しむのはなぜか。「その後」を生きやすい社会にするにはどうすればいいか。AERA 2021年3月29日号の記事を紹介する。
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今も時々、悪夢を見る。小学校4年生から25歳までの約15年間、実父からほぼ毎日、性的虐待を受けてきた悪夢を。
「横になっていると、どこからか手が伸びてきて体を触り始めます。初めはくすぐられているような感じですが、全く気持ちよくなく不快。やがて、何とも形容しようがない苦しみになり、このまま続くのであれば死にたいような耐え難い苦痛に変わります。手は、いつも父が私に性暴力をする時に使っていた手です」
関東地方に住む女性(40代)は、涙を拭う。
小さい時から父親に「おっぱいが大きくなったら一番に触らせて」と言われてきた。小学4年の頃、胸がふくらみ始めると触られ始めた。すれ違いざまなどに胸や尻、そして性器をまさぐってきた。いつでもどこでも誰の前でも、性暴力を振るった。風呂は何度ものぞかれた。心の底から嫌だった。
「やめて」と叫んでも、「父親なんだから自分の子どもには何をしてもいいんだ」と逆上。専業主婦で経済的に自立しておらず、父なしには生きていけない母親は、助けてくれなかった。最も大事にするべきプライベートパーツを乱暴に扱われ、自分は価値も人権もない「クズ人間」だと思っていた。
25歳の時に結婚で家を出てからは、性的虐待はなくなった。だが、家を出ても、苦しみは消えない。
性犯罪に関する記事を読んだり聞いたり、「父親」というワードに触れたりした時、フラッシュバックに襲われる。悪夢を見るようになったのは中学生の頃から。多い時は1日置きくらいに見た。今は随分減ったが、それでも年2、3回は見る。うなされて目が覚めると、とにかく不快で泥水を飲まされたような感覚が残る。セカンドレイプが怖くて、これまで誰にも話してこなかった。女性は言葉を振り絞る。