大学卒業後、九州の放送局に就職して2年目の23歳の時、警察担当の記者をしていて取材相手の警察幹部から取材場所で飲み物に睡眠導入剤を入れられ、気を失いホテルに連れ込まれ性被害に遭った。会社に被害を訴えたが、上司は「経験を踏み台に記者として成長しろ」と守ってくれなかった。心ない噂を流され二次被害にも苦しめられ、心身に不調をきたし休職し、そのまま退職。直後から、性的自傷を繰り返すようになった。
■フラワーデモがきっかけ性被害者と自分が重なった
性被害を受けた人は、不特定多数の人と性行為を繰り返す「性依存症」に陥る人が少なくない。背景には、そのような行動によって心理的苦痛や自己否定的な感情を解消しようとする動機があるとされる。
郡司さんはやがて今の夫に出会い、性的部分でなく人間として信頼されることで自傷行為をやめられた。だが、当時はそれが性的自傷だという自覚はなかった。ふしだらだなどと吹聴され、「汚いもの扱い」された。自分を大切にしろと言われ、さらに苦しくなった。
自分が受けたのが「性暴力」だったと認識できたのは、フラワーデモがきっかけだった。19年10月、あることが理由で参加した都内のフラワーデモで、性依存症に陥ったという性被害者のスピーチを聞き、被害者と自分が重なった。被害を受けて27年が経過していた。郡司さんは言う。
「それまでは、そういう生き方を選んだ自分が悪いとずっと思っていました。でも、私も声を上げていいんだ、悪いのは加害者なんだと気づくことができ、やっと自分を許すことができました」
なぜ、性被害者がここまで苦しむのか。性犯罪被害者支援に取り組む中野麻美(まみ)弁護士は、性被害への社会の偏見が大きいと話す。
「性被害に遭うのは圧倒的に女性ですが、被害に遭った時、『なぜ逃げなかったのか』とか『なぜ短いスカートをはいていたのか』と責められます。しかし、強盗被害に遭った人に『なぜ財布を持って歩いていたのか』などとは聞きません。それは、男性と女性という二項対立の構図の中で、家父長的な支配関係がいまだに残り、女性は性的に支配されるものだというマインドが働いているからです」