批判は他のテーマの論文についても広がりつつある。ラムザイヤー氏はここ数年、部落問題や沖縄の問題、在日コリアンなど、日本の少数者について論じる論文を相次いで発表していたが、慰安婦問題の論文がきっかけで、他の問題を論じた論文にも注目が集まるようになった。
ラムザイヤー氏が2019年に「法と経済学の国際レビュー」誌に発表した「でっちあげられたアイデンティティ政治:日本の部落民」と題する論文に対し、部落解放同盟は3月15日に見解を発表した。部落解放運動の指導者を「犯罪の暗黒街の代表」と呼び、被差別部落民に暴力団が多いとか、法に基づいて実施された同和対策事業について、部落解放同盟が政府を脅迫して実施させたといった論文の主張に対し「でたらめな推論に合わせて事実を歪曲している」と反論。「論文は、全編にわたって被差別部落や部落解放運動への憎悪と偏見で貫かれ、部落差別を助長するものである。絶対に許されない差別論文であり、論文の撤回を求める」と抗議している。
部落問題の研究者や、世界の差別問題に取り組むNGO「反差別国際運動」も、これら論文の誤りや問題点を指摘する文章を発表している。
ラムザイヤー氏のハーバード大での肩書は「三菱日本法学教授」。大学サイトなどによると日本で幼少期を過ごし、東京大や一橋大などで日本語での授業経験がある。日本研究への貢献が評価され、2018年に旭日中綬章を受章した。(朝日新聞編集委員・北野隆一)