ラムザイヤー氏の論文への反響が広がったのは、産経新聞サイトが1月28日付(紙面は31日付)で論文を「『慰安婦=性奴隷』説に異を唱える議論」と紹介したことがきっかけだった。これに加えて、1月12日に産経新聞の英語サイト「ジャパン・フォワード」にはラムザイヤー氏の「慰安婦についての真実を回復させる」と題する記事が載った。「慰安婦制度は朝鮮人女性が強制的に、あるいはだまされて性的隷属状態に置かれたり、暴力の脅威で監禁状態に置かれたりしたものではなかった。そのような記述は完全な作り話であり、朝鮮人慰安婦たちは自ら売春業を選んだ」などとする内容だった。
論文や記事に対し、韓国社会やハーバード大学内などから批判の声が広がった。米ハーバード大の日本史学者アンドルー・ゴードン教授と朝鮮史学者のカーター・エッカート教授は、論文の検証結果として2月17日、「根拠となる契約の実例が示されていない。引用された資料が筆者の主張とまったく無関係だったり正反対の内容だったりするなど、論文には多くの深刻な問題点がある。掲載を撤回すべきだ」との声明を発表した。米国の日本研究の一大拠点として知られ、ゴードン氏が所長を歴任したハーバード大ライシャワー日本研究所も、論文に対して「所属教員の間で深刻な懸念が表明されている」ことに触れ、「懸念事項に編集者が十分対処する」よう求めた。
またエイミー・スタンレー米ノースウエスタン大教授や茶谷さやかシンガポール国立大准教授ら、米・英・日・シンガポールの4カ国の大学の日本史学者ら5人は2月18日、ラムザイヤー氏の論文が資料にもとづいて実証されているかどうかを、引用文献や原資料にあたって詳細に検証した反論文を発表。「事実の歪曲や誤った説明、誤導や史料の無視などが多い。記述の不正確さは論文の主張を完全に損なうもので、議論が破綻している。論文は撤回されるべきだ」と結論づけている。