落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ランナー」。
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東京五輪の著名人聖火ランナーの辞退が相次いでますが、私も辞退するつもり。頼まれてないけど。いいでしょ! 万一オファーされた時には「ちょっと勘弁」と意思表示するのは自由でさぁね。
私が辞退する理由。一つ目。皆さん、幼いころから親御さんに言われませんでしたか?「火で遊んじゃいけないよ!」と。ましてや火のついた棒を持って走り回るなんて「おねしょするよ!」と躾けられませんでしたか? 私は言われましたよ。『チャッカマン』持って聖火ランナーのマネしてたら卒倒するくらいめちゃくちゃ怒鳴りつけられましたよ。「ウチは紙と木で出来てんだっ!!(怒)お前の悪ふざけで一家6人路頭に迷うんだぞっ!!(大怒) その時はどうしてくれるっ!(激怒)口減らしにお前を売るぞっ!(鬼怒)」と。『口減らし』ってこの時覚えたよ。遊び半分で火を持って走っちゃいかんのです、はい。
その二。「単純に熱くないか、火?」。火は熱いですよね。風向きにより、顔を掠めるくらいになるのではないでしょうか? 「聖火は安全ですよ(苦笑)」みたいなクソ正論は受けつけません。自分が「めっちゃ熱い」と思い込んでいるものを、顔の脇に掲げる状態の己の表情の硬さを想像するに、恥ずかしくて我慢ならんのです。何度も目を瞬かせることでしょう。シパシパしてる自分を沿道の観衆に見られるなんて……恥ず!!
三つ目。これはその二と通じるのですが「火を持って走ってるところを地元の知り合いに見られるのが辛抱ならん」。聖火リレーも無観客開催で……みたいな噂もありますが、自分の故郷を走る時、本当に「無観客」が徹底されると思いますか。田舎です。見ようと思えばどっからでも見えるでしょう。観覧規制する人も恐らく地元民のボランティア。「あー、ホントはダメだけどねぇ~。川上くん(私の本名)が聖火ランナーなんてもう無いだろうから……こっちこっち! ここからなら見てもいいよ、おばちゃんっ!」って実家の近所のおばちゃんを闇で誘導するに決まってます。幼い時からの私を知っているおばちゃんたちは「ほらっ! 頑張れっ! トシくん(私の本名)」と43歳のオッサンをまるで幼子のように応援します。走ってる最中に「ほら、これでビッグワンガム買いなっ!」ってチリ紙に500円玉を包んで渡してくるでしょう。すると、地元のガラの悪い同級生が「マジで川上が走ってんぞ~っ! みんな~っ!」と明かりに群がる蛾の如く集まってきます。「ピチピチだな~、その衣装(大笑)」「30年前に貸した『ポートピア連続殺人事件』(ファミコンカセット)返してもらってねーぞっ!(激笑)」「タバコの火、つけてもらっていい~?(鬼笑)」だのと囃し立てることでしょう。