現在の音楽シーンの動きを世界規模で追いかけると、大きく分けて二つの傾向がある。一つはインディペンデント・アーティストがいつになく大きな影響力を持つようになったこと。もう一つは、アジアのアーティスト、もしくはアジア系アーティストが、各地で力をつけていることだ。
アメリカの独立系レコード・レーベルの業界団体『American Association of Independent Music(A2IM)』によると、去る3月14日に発表になった第63回グラミー賞では、インディペンデント・アーティストの受賞が実に全体の52%を占めたという(ここでいうインディペンデント・アーティストの定義は、少なくとも51%独立したオーナーが所有するレーベルに所属していること)。例えば、最優秀新人賞を獲得したミーガン・ジー・スタリオン、最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞を受賞したサンダーキャットはそれぞれ「300 エンタテインメント」「ブレインフィーダー」というレーベルから作品をリリース。特に日本でも人気の高いベーシスト、サンダーキャットは、ジャズ、ヒップホップ、R&Bなどをミックスさせたハイブリッドな音楽性で、大手メジャーに所属するアーティスト以上に影響力を持っている。
また、アジアのミュージシャンに注目が集まるようになって久しい。グラミー賞の獲得は逃したがBTSやBLACKPINKといった韓国のトップアーティストだけではなく、アジア各国からバンドやDJ、トラックメイカーなど様々なスタイルのミュージシャンが国境を越えて活動している。ニューヨークでDJとして活動する韓国人女性のイェジ、ニルヴァーナを送り出したアメリカの老舗インディーレーベルと契約した日本の女性4人組バンドのチャイ(CHAI)などは海外メディアでも人気。昨今、アメリカではアジア人を標的にしたヘイトクライムが急増しているが、こと音楽の現場では、リベラルな状況が受け入れられている。