こうした浴室熱中症や脱水症状は、それ自体も恐ろしいが、何より危険なのが「浴室で意識を失う」ことだ。以前、早坂氏が実施した2千人以上を対象とした調査によると、浴室で起こりやすい体調不良の3大症状に「意識障害(失神)」が入るという。熱中症や脱水症状が直接の死因にならなくとも、意識を失うことで、冷たい浴室に長時間放置され低体温症を引き起こしたり、浴室のタイルに頭をぶつけて脳挫傷になったり、湯を張った浴槽から起き上がれずに溺死したりといった事故が、じゅうぶんに起こり得るのだ。

 では、こうした不慮の事故を防ぐために何ができるのか。早坂氏は、基本的な予防策として「温度」「時間」「水量」の三つの管理を挙げる。

「高齢になると、皮膚の温度センサーが鈍って熱さを感じにくくなるため、熱いお湯じゃないと肌寒く感じることがあります。しかし多くの研究結果で、42度以上の湯は、血圧や脈拍を速めて体に負担をかけ、熱中症のリスクも上昇することが指摘されています。自分の『ちょうどいい』という感覚ではなく、数値で温度を管理してほしいです」

 また、時間を区切ることも大切だ。全身浴の場合、安全を考えれば「40度で、延べ10分」の入浴が目安になる。

「入浴後、5分ほどで汗が出てくると思うので、いったん浴槽から出てください。通常、体温が0.5度上がると発汗しますが、これは温熱作用がじゅうぶんに得られたというサイン。『汗をたくさんかいたほうがよい』と考える方もいますが、むしろ健康を損ないます。一度休憩をはさんで、汗がひいたらもう一度5分入って体を温めましょう」

 最後に水量について、早坂氏は「健康な人であれば全身浴でも問題ないが、半身浴のほうが体にかかる負担は少ない」と言う。

「肩の上まで湯につかると、水圧で肺が圧迫されるほか、足先から心臓に押し戻される血液量が増加して、心臓に負荷がかかります。心臓や肺の持病がある方は、半身浴のほうがいいでしょう」

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