ちなみにギリシャ神話で「エロス」は愛の神、「タナトス」は死を擬人化した神。岡本さんのいう「死の本能」とは私にとっては「虚空」の存在のことです。岡本さんの生と死に対する姿勢は、生きながらに虚空と一体となることを求める私のナイス・エイジングの考え方と相通じるところがあります。岡本さんはこのようにも語っています。

「自分を可愛がり、生命を大事にしよう、生きがいを持って生きたい、と執着しこだわると、逆に弱い存在になってしまうのだ。私はいつでも断ち切る。いや、今この瞬間瞬間、『死』を足の下にふみしめている。──それは陰気なメソメソした気分ではなく、明朗に前にとび出していく、危険に向かって突っ込んでいくエネルギーの爆発なのだ」

 つまり、これこそ「攻めの養生」です。岡本さんの「爆発!」とはこういう意味だったのです。岡本さんは享年84。私はそれを超えました。まだまだ爆発し続けます。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年4月16日号

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