レースに送り出す直前にどんな言葉をかけるか、それも時間をかけて考え続けます。泳ぎの技術だったり心構えだったりするのですが、その言葉がすっと選手に入っていくように、日々の練習の話の中で種をまいていることもあります。
3大会連続のメダルを狙う萩野、世界選手権メダリストの大橋悠依ら指導する7人の選手が選考会に出場します。東洋大の岡田真祐子コーチ、マネジャーの力も借りて、7人全員を五輪代表に入れることが今大会の私のチャレンジです。人数が多いのでチームワークが大切だと思っています。
選考会が終わった後の話も書いておきます。
東京五輪が決まってから、地元の開催で一人でも多くの選手を派遣したほうがいい、という意見をよく聞きました。コロナ禍が起こって1年延期したことで、スポーツ、五輪、派遣そのものの価値観が変わってきた、という印象があります。今の社会情勢の中で、多くの選手を派遣することより、去年に比べて成績を求められる要因が大きくなっているのでは、と思います。
現場で指揮を執る立場としては、どうやっていい成績を残すかを考えなければいけません。それには代表選手それぞれが目標を設定して、チームの優先順位をはっきりさせて取り組む必要があります。平均点を上げるだけではメダルに届きません。選考会後は最高点を上げて世界と戦う強い意志が不可欠です。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
※週刊朝日 2021年4月16日号