「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。
■友だちと学べる環境を
ハワイでの生活の話をすると、よく「どうして(行き先を)ハワイにしたんですか?」と聞かれます。実は、私はハワイ州には伝手があったわけではなく、勢いと思いつきが渡米することにつながりました。そして、ハワイでの過ごした経験と出会った教育が、現在の生活の原点になっています。
足が不自由な息子は、歩くことはできませんでしたが、膝から下以外の発達は同月齢のお子さんとほぼ同じに進み、言葉を話すようになってくれました。2歳頃には曲に合わせて歌ったり、嫌な時には主張するようにもなりました。その様子を見ているうちに私は、発達支援目的のリハビリだけではなく、友だちがいる環境に入れてあげたくなりました。
2010年春頃、翌年に年少となる息子の就園について相談できる場所を探したものの見つからず、市の保健センターへ問い合わせました。
「この地域の幼稚園は私立が多いので特定のどこかを紹介することはできないのですが、幼稚園の一覧表をお渡しするので、ご自身で連絡してみて下さい」
■「歩けるようになったら」
過去にこういうケースはなかったかと聞いてみましたが、個人情報を理由に教えてはもらえませんでした。受け取った表には30前後の幼稚園の連絡先が載っており、まずは私が育ったカトリック系の園に電話をしました。
「歩けないお子さんは今まで受けたことがありません。足が不自由というのはおむつが外れないなどの発達のご相談とは全く違うので、ちょっと難しいと思います」
必死に息子に会ってもらえないかと尋ねましたが、「どちらにしても断ることになるので」と一方的に電話を切られてしまいました。その後も表の順に連絡をしてみたものの、「歩けるようになったらまた電話して下さい」と言われてしまいます。初めのうちは「面接だけでも……」と何度もお願いしていたはずが、途中からは1度断られると諦めて電話を切るようになり、結局、面接を受けさせてくれる園を見つけることはできませんでした。
目の前には、座っていたらどこにでもいそうな2歳の男の子がいました。