年間約2万5千人が罹患する食道がん。I期の治療では、化学放射線療法か外科手術のいずれかを選べる。II期・III期では術前化学療法後に外科手術をするのが標準だ。近年は胸腔鏡手術が主流となり、入院期間は大幅に短くなった。合併症も減少傾向にある。
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切除する範囲が広い食道がんの手術には怖いイメージをもたれることが多い。しかし、今回登場する医師たちは、
「昔とは違い、手術の技術は大幅に進歩し、術後の合併症も減ってきている。安心して手術に臨んでほしい」
と口をそろえる。
理由の一つには胸腔鏡手術が広がったことがある。胸腔鏡手術の大きなメリットは傷口が小さいため、術後の回復が早いことだ。
この手術を日本で早くから実施した昭和大学病院食道外科教授の村上雅彦医師はこう話す。
「開胸・開腹手術は早期のステージでも75歳以上は適応外でした。胸腔鏡手術では全身状態がよければ、年齢制限はありません。当院では80代の患者さんは普通ですし、90代で受ける方もいます」
胸腔鏡手術と開胸・開腹手術はどう違うのか。食道がんの中で最も患者数が多い胸部食道がんの場合、開胸・開腹手術では頸、胸(右胸)、腹の3カ所を切開し、胸部食道すべてを切除する。
■胸腔鏡手術は肺炎リスクも少ない
腹部からは胃を管状に成形して、食道を再建する。これを胃管とよぶ。胃管ができたらこれを引き上げ、頸部で残った食道とつなげる。なお、転移・再発を防ぐため、3カ所の切開部分からは食道周囲のリンパ節の切除もおこなう。
胸腔鏡手術はこのうち胸の操作を胸腔鏡というカメラ(内視鏡)を用いて実施する。胸のわきや背中の4~5カ所に1センチまたは5ミリのポート(筒)を肋骨の間から挿入し、胸腔鏡を入れる。
「現在、食道がんを専門にする病院の約90%が胸腔鏡手術を取り入れており、開胸・開腹手術だけというところは、まずありません。最近では胸部だけでなく、腹部の処置は腹腔鏡でおこなうところが増えてきました」(村上医師)