食道がん手術では3大合併症として「肺炎」、縫合部分から食物や消化液が漏れる「縫合不全」、手術で発声にかかわる反回神経を触ることで一定期間、声がかすれる「反回神経麻痺」がある。

 胸腔鏡手術では合併症が開胸・開腹手術より多いという報告もあるが、「それは昔の話」と村上医師は言う。

「現在は技術を持つ医師が増え、合併症の発症率は全体的に下がってきています。また、術後肺炎については、胸腔鏡手術のほうが明らかに少ないといわれています」

 現在、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)により、長期間の治療成績や安全性についての比較研究が実施されている。

 最近はさらに新しい手術法も登場している。ロボット支援手術と縦隔鏡手術だ。ロボット支援手術は2018年4月から保険収載された。胸腔鏡手術と同様に胸部に穴を開け、そこから鉗子やカメラのついたロボットアームを挿入し、医師が遠隔で操作する。一般的には胸部でおこなわれるが、腹部もロボット支援で施術する病院もある。

 アームには手首のような機能があり、人間の関節よりも可動域が広い。また、手ぶれ補正機能も備えられている。胸腔鏡手術に比べ、医師が技術を習得しやすいと期待されている。

 縦隔鏡手術は頸の切開創から縦隔(肺と肺の間)に縦隔鏡というカメラを入れ、食道に到達させて、食道やリンパ節の切除をする(腹部から腹腔鏡を入れ、2方向からおこなう場合もある)。食道再建は腹腔鏡で実施することが多い。胸部を切開せずにできるのが特徴だ。江戸川病院外科の中島康晃医師はこう話す。

「通常の外科手術は胸部で右肺をしぼませる必要があるため、肺の手術歴がある人や、呼吸機能が悪い人には実施できないことがあります。縦隔鏡手術はこうした人たちに向く治療です」

 ただし、ロボット支援手術と縦隔鏡手術のどちらも実施している病院は、まだ少ない。

「胸腔鏡手術においてもすべてを対象にするところから、早期のものに限定している病院まで、幅があります。また、再発の多い食道がんでは、がんをしっかり取り除けるということも欠かせない条件です。こうした点をふまえて手術法を選択するべきでしょう」(中島医師)

■「胃が縮み痩せる」というのも今は昔

 ところで、食道がん手術のあとは胃の形や大きさが変わり、「食べる量が大幅に減り、痩せてしまう」とよく言われる。しかし、この点も改善されてきているという。

「病院ごとにやり方は違いますが、胃管の作り方を工夫することで、対処できます。当院では胃を多く残す形で再建しますが、この方法だと術後1年後に多くの患者さんが手術前の8割まで食べられるようになります。みなさん、標準体重かそれに近い体重を維持できていますよ」(村上医師)

 なお、再建した胃管を置く位置については、胸骨の後ろ、もともと食道があった場所、など複数の方法がある。いずれも一長一短があり、食べ物の逆流防止や合併症対策などの問題を考慮して決めることになる。

 また、合併症の発症には術前管理の仕方が大きく影響する。例えば肺炎の予防には手術前からの禁煙が欠かせないといわれている。呼吸訓練や嚥下リハビリ、さらに早期離床のための歩行訓練を実施している病院もある。こうした体制の有無も確認した上で病院を選ぶべきだろう。

(文・狩生聖子)

週刊朝日  2021年4月23日号より

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