室井佑月・作家
室井佑月・作家
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イラスト/小田原ドラゴン
イラスト/小田原ドラゴン

 作家・室井佑月氏は、コロナ禍で東京五輪の開催を強行する国の姿勢に、怒りと恐怖を覚える。

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「それは社会的に許されることなのか」とか、「世界から日本がどう見られると思う?」などという考えは超えた。

 新型コロナウイルス、世界では286万人もの方が、日本では9229人の方がお亡くなりになった(4月6日時点)。後遺症の問題もある。

 その中で日本が、聖火リレーからの東京五輪を決行するとはどういうことなのか? 以前もこのコラムに、2週間の祭りとあたしたちの命や健康は天秤(てんびん)にかけられていいものか、という話を書いたが、天秤にかけられて後者が軽く見られるって、現代の世の中で起きていることとは思えない。

 正直いって、この件についてのあたしの感想は、「怖い」のただ一言だ。

 感染するかもしれないというのも怖いが、それよりもじわじわと自分を取り巻く世の中が狂気へと突き進んでいくのが怖い。

 聖火リレーでは、やはり人の密ができているようだ。

 そりゃそうだ。聖火リレーって五輪開催を盛り上げていくためのイベントだもの。

 日本はコロナ禍の真っただ中。感染症対策として、密を作らないようにするってのは、最低限守らなくてはいけない話ではないの?

 でも、国を挙げ、力を入れるのはそこではない。聖火リレーの観客を少なく見せるために、写真を切り取る。東京五輪反対という街頭の声を消すため、無音にして流す。

 東京五輪の闇をスクープした週刊誌が、回収しろと恫喝(どうかつ)された。

 聖火リレーのスポンサー車のDJが、

「もうウダウダ考えたって仕方ないんです! 何がいいか? 今を楽しむこと、それだけです!」

 そう叫んでいたのは驚いてしまったが、この動画をツイッターで公開した新聞社の人間は、公道で撮ったにもかかわらず、これから仲間が東京五輪の取材から外されると困るから、そういって動画を消した。

 けれど、菅政権やどうしても東京五輪を開催したい一派が、「もう考えたって仕方ない。今を楽しめ!」とあたしたちにいっている事実は変わらない。

「ワクチンがみんなに普及するから安全」といっていたが、そのワクチンがまったく間に合わないのに祭りは決行。1年以上経っても感染対策はまだあたしたちの意識に頼るばかりなのに、人が集まるイベントの強行。

 あたしたちの健康や命より大事とされた祭りは、もう完全な形での開催は無理である。賛成派がはじめにいっていた、経済効果や日本のすごさを世界に発信などということは、もはや起こりそうもない。

 逆じゃないか。あたしたちの子や孫に、世界から白い目で見られるこの国を残すことになるだろう。

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

週刊朝日  2021年4月23日号