「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第46回から3回にわたり、コロナ禍の旅のルポをお届けする。
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昨年の秋、毎夜のようにパソコンの前で悩み続けていた。モニターにはヨーロッパまでのフライトが表示されている。クリックすれば、すぐにでも渡航することができた。
行っていいのだろうか。
新型コロナウイルスの感染が広まり、多くの国が入国規制に踏み切った。人々の往来を止めたのだ。しかしいつまでもその状態に置くわけにもいかない。西欧の国々の多くが、観光目的の日本人を受け入れるようになった。国によって入国条件は若干違っていたが、PCR検査の陰性証明があれば、隔離することなく入国できる国が多かった。ほぼコロナ禍前の情況に戻ったことになる。もっとも日本に帰国したときには自主隔離が待っていたが。
緊急事態宣言のとき、日本では県をまたいだ移動の自粛など、行動制限の指針が示されていた。しかし海外への渡航で、それに相当するのは、外務省の海外安全ホームページしかなかった。
このサイトには、従来、その国やエリアの治安などを考慮して危険情報が出されていた。新型コロナウイルスの感染が広まり、そこに感染症危険情報が加わった。それは4段階にわかれていた。
レベル1:十分注意してください
レベル2:不要不急の渡航は止めてください。
レベル3:渡航中止勧告。
レベル4:避難勧告。
昨年の秋、僕が悩んでいた頃、世界の国々はほとんどがレベル3だった。しかしビジネスマンの渡航ははじまっていた。感染症危険情報を無視したことになる。そんなとき、西欧の国々が入国規制を緩和した。簡単に渡航できるようになったのだ。しかし日本の感染症危険情報はレベル3のままだった。
僕はその狭間で悩むことになる。理由もわかっていた。世界の国々は渡航に関しての共通ルールをもっていなのだ。独自に規制するから矛盾が出てくる。最終的には自分の判断になる気がした。渡航国にウイルスをもち込まず、日本にももち帰らない。それがコロナ禍の旅なのだろう。