「驚きました。感じるのは、政府や総理の機嫌を損ねることをメディアが極端に恐れているということです。メディアは第2次安倍政権以降、『権力と対等』でなく、『殿様と下僕』のような主従関係に安住するようになりました。官邸側に完全に仕切られてしまっている現在の総理会見もその象徴です」
これに加え、山崎さんが「気持ち悪い」と話すのが、「させていただく」という言葉の氾濫(はんらん)だ。本来そこまで言う必要はないのに、「上の人の機嫌を損ねてはいけない」「自分が謙虚であることをアピールしないと」という「萎縮の心理」が社会全体に広がっていると、山崎さんは見る。
「そんな萎縮の状況と、政府に尊敬語を使うことは根っこがつながっています。加えて、『権力を監視するための批判は、与党への攻撃だ』という勘違いをする人が増え、本来の仕事を果たすメディアに対し、『偉そうだ』などと筋違いの批判をしてしまう。メディアの萎縮には、国民の側にも責任の一端があるんです」
■怖いSNS上での批判
それはツイッターなどSNSの影響も大きいのではと考えているのが、政治記者として30年以上の経験があり、テレビの報道番組などでコメンテーターとしての出演も多い毎日新聞専門編集委員の与良正男さん(63)だ。自身はテレビでコメントする際、政府や総理に尊敬語は使わず、かつ必ず「菅さん」と呼ぶ。
「私もたまにエゴサーチ(インターネット上で自分の名前を検索)すると、『なんで与良は一国の総理にさん付けなんだ。何様だと思ってる!』と。そういう声はテレビ局にも山ほど来るんです。それをアナウンサーやコメンテーターがすごく気にする結果、『尊敬語を使って、リスペクトしているふりをしておいたほうが無難だ』となる。そんな意識は間違いなくあると感じています」
■尊敬の気持ちはない
加えて与良さんが気になるのは、その尊敬語が本当は尊敬の気持ちからきているわけではないということだ。与良さんはテレビ出演以外の日常でも、政治家を呼び捨てにすることはしない。長年取材し、政治家の仕事に敬意を払っているからだ。