ミッツ・マングローブ
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、橋田壽賀子さんについて。

【写真】おしんの撮影現場での橋田壽賀子さんと泉ピン子さん

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 脚本家・橋田壽賀子さんが亡くなりました。NHK朝ドラの金字塔『おしん』や、平成の時代とともに30年近く続いた『渡る世間は鬼ばかり』など、数々のヒット作を残した橋田先生。あらゆる感情や間合いをすべて台詞や語りで説明してしまう、あの独特な作風が観られなくなると思うと寂しい限りです。

 中でも『渡鬼』こと『渡る世間は鬼ばかり』は、高校入学と同時にクラスメイトから「東京ラブストーリーも面白いけど、渡る世間も面白いよ」と薦められて以来、私の大好物となりました。5人姉妹それぞれの嫁姑バトルを軸に、とにかく誰かと誰かが喧嘩をし、誰かが誰かに泣きつく。ひたすらそれだけを繰り返して30年。考えてみたら禅問答のようなドラマです。

 特に想い入れがあるのが、5人姉妹の母親役を演じた山岡久乃さんが主役として出演していた第1シリーズから第3シリーズ。山岡さんの他にも、次女・泉ピン子さんの姑役の赤木春恵さんや、小姑役の沢田雅美さん、山岡さんの小姑役の森光子さん、五女・藤田朋子さんの姑役の京唄子さんなど、強烈極まりないキャラクターたちに毎週よだれを垂らしながら観ていました。

 前述通り『渡鬼』は、とにかく「懲りない」「学習しない」の連続なわけですが、長年視聴してきた愛好家としては、それ以上に解せない特徴があります。それは「過去に起きたかなり大きな出来事を、まるでなかったことにするかのように登場人物たちが思い出さない」ということ。例えば第1シリーズ終盤で、ブレーク前の唐沢寿明さん演じる男性と結婚した四女は、実家で両親と同居するも、内緒で伯母(森光子)の住むハワイへの移住を決めてしまいます。それを知った母親(山岡久乃)はもちろん激怒。それを宥める夫(藤岡琢也)に「子供って何なんですかぁ! 何のために苦労して大きくしてきたんですかぁ!」と叫ぶシーンは、観ている側の涙も誘いました。時を同じくして、ブレーク前の香川照之さん演じる子持ちの男性との結婚を一方的に決めた五女にも、癇癪を起こし茶筒や煎などを一心不乱に投げつけ、そのまま床に突っ伏して慟哭するという、平成ドラマ史に残る大熱演を魅せた山岡久乃さん。私もこのシーンで何度号泣したことか。なのに第2シリーズが始まると、四女は唐沢寿明と離婚し帰国。五女も夫・香川照之と突然死別という驚愕の展開に。すると母・山岡久乃は、香川照之の娘(前妻との連れ子)を「いずれはこの子に家を継がせる」と言って溺愛し出します。彼女もすっかり懐き、幸せな時間が続いていました。ところが突然遠い親戚が引き取りに現れ、これまた涙涙の別れに。

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