裁判ではこの点がポイントとなるが、海渡氏は「事実的因果関係」と「法的因果関係」は異なると話す。
「男性に他の病気は見当たらず、原発作業では記録以上の被曝をしている。白血病の発病と被曝の間には高い蓋然性があり、法的には相当因果関係があるとみるべきです」
がんの原因が被曝かどうかを証明する難しさは、労災認定件数にも表れている。
厚労省は、被曝労働で発症すると考えられる疾病を甲状腺がん、肺がん、白血病など15種類に分類。08年以降、このカテゴリーで47件の労災請求があったが、認定されたのは13件のみ。福島第一原発事故後に限ると25件の申請中、認定は6件に留まっている。1976年以降に広げても、がんで労災認定されたのは全部で19件に過ぎない。
■労災認定の過程も不透明、業務が原因か審議は非公開
認定件数がなかなか増えないのは、白血病以外の固形がんの場合、認定基準が厳しくなるのも原因だ。例えば、肺がんを認定する目安は「100ミリシーベルト以上の被曝と発症まで5年以上の時間が経過していること」となり、ハードルも高い。
認定をするかしないかを決める過程も不透明だ。被曝で病気になった労働者から労災申請があると、被曝医療や放射線防護などを専門とする6人の委員で業務上の被曝が原因かどうか検討するが、審議は非公開のため判断の過程を検証することはできない。委員に取材を申し込んだが、検討会に関することには答えられないとの回答だった。
東電は5年区切りで福島第一原発作業者の累積被曝線量を出しているが、それによると福島第一原発事故から16年3月までに同原発で放射線業務に従事した約4万7千人の平均被曝線量は12.83ミリシーベルト。その後、現在まで約2万4千人が平均6.52ミリシーベルトを被曝した。
原発に関する多くの著作があるルポライターの鎌田慧氏は、「実際にはもっと多くの収束作業員が健康被害を受けているはずだ」としてこう話す。
「がんや白血病は被曝から時間が経って症状が出るうえ、労働組合などの支えがない労働者にとって、労災申請や裁判は手間や時間がかかり、諦めてしまうケースも多い。表に出ない罹患者は相当数いるだろう。作業員を救済するには、裁判で勝ち労災認定も増やしていくことで、被曝労働者が健康被害を生じたら関連があると社会的に認知されるようにしていくことが必要だ」
(ジャーナリスト・桐島瞬)
※AERA 2021年4月26日号