3号機のカバーリング工事と雑固体廃棄物焼却設備建屋の設置工事も担当するうちに被曝量は増え続け、原発での作業を終える13年12月までに15.68ミリシーベルトを被曝。18カ月の総被曝量は19.78ミリシーベルトに達した。
男性の体調にこの頃から変化が表れ始める。息苦しさを感じ、微熱とせきが続く。そういえば半年ほど前から酒にすぐ酔うようになり、目の前に靄がかかったようになったことを思い出した。年明けに地元の病院で検査を受けると急性骨髄性白血病と診断。骨髄の80%にがんが広まり、多くが末梢血にも溢れ出ていた。医師から「あと2週間発見が遅ければ全身から出血して手遅れになるところだった」と言われてすぐに入院した。「もう、普通の生活には戻れないだろう」とも告げられた。
放射線治療と抗がん剤の副作用で80キロあった体重は56キロまで減り、抵抗力が落ちたことで敗血症を併発。41度の高熱が10日続き、酸素マスクをしながら「このまま死ぬのかと思った」。その後、造血幹細胞の自家移植に成功してようやく寛解したが、8カ月の入院中、死の恐怖や将来への悲観からうつ病を発症した。
男性は最初、被曝が原因で白血病を発症するとは知らなかったが、自分の被曝量が労災認定の基準に達していることを聞き、労災を申請する。白血病の認定基準は、年間5ミリシーベルト以上の被曝があり、被曝後1年以上経ってから発生した骨髄性白血病かリンパ性白血病だ。申請から1年7カ月後に白血病が、2年2カ月後にうつ病が労災認定された。福島第一原発の収束作業に関わった作業員としては、初めての被曝による労災支給だった。
■全面マスクの隙間から、放射性物質が入る杜撰さ
労災支給を受けているのに、提訴に踏み切った理由を男性が語る。
「東電が作業員に向けたお知らせで、『福島第一で作業をして白血病になった作業員が労災認定を受けたが、厚生労働省は科学的に被ばくと健康被害との因果関係が証明されたのではないとの考え方を示している』との内容を載せていました。それを読み、怒りが込み上げてきました。事故を収束させるために被曝してまで作業したのに、病気になってもお詫びの言葉もなく、被曝の影響さえ全否定する。社員には手厚い補償をするのに、作業員は平気で切り捨てる冷たい会社であることを、世の中の人に知ってほしかったのです」