『赤頭巾ちゃん気をつけて』の主人公ばりの柔らかい知性とアマチュアリズムを持ち続けた岡田さんは、「役者の出身だった」「プロデューサーとしてテレビドラマも手がけた」「映画界のドン岡田茂の息子だった」三つが語り継がれている。だが、東映関係者によれば、血筋のいい二世だから迎え入れたわけではなく、その才能ゆえに「三顧の礼」で来てもらったのだという。
岡田さんは撮影現場を大事にし、大好きだった。音入れ作業が長時間に及んでも最後まで徹夜でスタジオに残り、スタッフと朝陽を浴びた。映画記者の懇親会でも自ら進んで記者の輪に入って座を盛り上げていた。
こんな話もある。
ある時、東映のビルのエレベーターで、岡田さんの姿を見て掃除のおばさんが乗るのを遠慮した。「同じ会社の仲間じゃない。早く乗って」と、気さくに声をかけた……銀座の本社で、社員たちはそんな光景を何度も目にした。
僕が最後にお見かけしたのは2019年4月の三國連太郎さん七回忌だった。俳優やスタッフに囲まれた岡田さんはダブルのスーツを着ていたけれど、はにかんだ優しい笑顔は、やはり映画の中の高校生、「薫君」だった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2021年4月30日号