TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。先日亡くなった東映の岡田裕介さんについて。
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先月、東映グループの岡田裕介会長お別れの会が開かれ、2千人が故人を偲んだ。映画の製作委員会でお世話になり、年末の各賞授賞式の宴や、僕が原田芳雄さんの遺作『大鹿村騒動記』(阪本順治監督、2011年)の原案を書いた関係で、ご挨拶したこともある。
俳優としての映画初出演作は、庄司薫さん原作の『赤頭巾ちゃん気をつけて』。何度お会いしても、岡田さんは僕にとって『赤頭巾ちゃん気をつけて』の主人公・薫君そのものだった。
庄司薫の原作小説はこれまで何度も読んだ。都立日比谷高校の3年生の主人公、薫君は東大闘争のあおりで入試が中止になってしまう。「人生の一大事」に遭遇した彼の一日を綴った小説は、飼い犬のドンが死んだり、足の親指の爪を剥(は)がしてしまったり、少女にその足を踏まれながらもお喋りし、旭屋書店でグリム童話を選んであげ、その子の後ろ姿を「気をつけて」と見送ったあと、「舌かんで死んじゃいたい」が口癖の女子大付属の高校に通う幼なじみの由美に「大学に行くのをやめる」と告げたりする。
日比谷高校に通い、慶應大学に入るも学生運動のバリ封鎖で休講が続き、たまたま新宿を歩いていてスカウトされた岡田さんは、主人公の薫君とほぼ経歴が重なっている。
この作品が好きな僕は大学の映画研究会に入るなり1年生の分際で自分の意見を押し通し、東宝に話をつけて無償でフィルムを借りて日吉の大教室で上映会を開いた。
生前の岡田さんを知るTFMの同僚に話を聴くと、何年経っても「赤頭巾ちゃんの薫君」のことを訊かれるらしく、「あの時代とリンクした自分がそこにいただけだよ」と照れながら、「でもね、公開初日に映画館に並んだお客さんの長い列を見て、嬉しくなって握手して回った。映画人としての原点になった」と語ったそうだ。