ずっと、時代の変化とは「進化」だと思っていた。でも、どうもそうじゃないんじゃないか。世間が持てはやすAIもDXもVRもマイナンバーも、私にはその先に幸せが待っていそうな気は全くしない。っていうかむしろ望まぬ何かに向かって追い立てられる恐怖を感じる。それは単に老化のせいなのだろうか。物事には何事も「ちょうどいい」地点があるのではないだろうか。変化すればいいってもんじゃない。便利ならいいってもんじゃない。新しけりゃいいってもんじゃない。
私は巻き戻る時間の中で、その「ちょうどいい」地点を探していたのだ。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年1月30日号