宇多丸:それ、すごいわかります。まさに歌詞をつくっていて、ここまではきたけど、なんか詰まっちゃったなあ、というときに一番作業が進むのは、朝起きてシャワーとか朝っ風呂浴びているときなんです。でもね、朝起きてシャワー浴びても、ああ、浮かばねぇなあってときもある。そんなときは、今日はもうダメだという見切りも大事な気がします(笑)。

河尻:風呂もいいらしいですね。評伝を書くために資料を調べていて、瑛子さんの過去の発言で面白かったのは、アイディアが出ないときは、何回もお風呂に入ると。それこそ5回とか。もしかしたら修行のように入ってたんじゃないかと思うんですけど(笑)。基本的にストイックな人でありつつ、緩ませることの大事さも知っていたんでしょうね。多忙なわりに、旅にもよく出かけています。

宇多丸:石岡さんでさえ、5回入ってもアイディア出ないときがあるってことですね。それは勇気出るなあ。

■自分のアンテナに敏感でありたい

河尻:勇気がもらえるという話に絡めて言うと、「流行は追わない」という瑛子さんの信念も大事かもしれませんね。

 彼女にとっての「流行は追わない」というのは、決して時代に背を向けたり、無視しているわけではなく、むしろ敏感なんですね。

 その上で流行に乗っかるのではなく、自分にとっての“マイ流行”みたいなものを見つけて、そっちを掘り下げたほうが、世の中を沸かせる提案ができるんじゃない?というニュアンスで「流行は追わない」ということを言っていたんだと思います。

宇多丸:僕は、流行っているから追っかけなきゃ、知ってなきゃ、ましてや好きにならなきゃというのはおかしいでしょ、と言ってるんです。たとえばラジオ番組の企画でも、「いまの若い子はこれが好きだから」って考え方もあるんでしょうけど、僕は、それってどうなの?って思うところがあって。

河尻:すでに流行っているものを再生産するだけだと、次のムーブメントは起こせないでしょうし、つくり手もアップデートできなくなっちゃいますね。

宇多丸:ラジオパーソナリティという立場上、情報はグイグイ入ってくるんだけど、僕は世の人が当然追っていることを意外と知らなかったりする。

 自分のアンテナがこっちだと示したものには敏感ですけど、「いま、何がトレンドなんでしょう?」みたいなことは、やりたくないですね。だって、それに影響を受けて作品に落としこんだところで、確実に遅れるじゃないですか。そんな100パーセント遅れる方法でやっていても、楽しくないうえに、カッコ悪い。

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