河尻:ボーダーないですからね。広告から映画、舞台、音楽、サーカスにオリンピックなど。

宇多丸:それもそうだし、その“カルチャーわらしべ長者ぶり”というか、どこまでいっちゃうの?みたいな。やっぱり石岡さんがアメリカに渡ると言い出したときは、周りから「あなた、何言ってるの?」って受け止め方も当然あっただろうと思うんです。

 資生堂の入社面接での「お茶くみではなく、デザイナーとして雇ってほしい。給料は男性と同じだけほしい」という、あの有名な啖呵切る感じだって、なかなかな賭けだったかもしれないし、生意気だって言われて終わりだったかもしれない。でも、ぶれずにやってきて、カッコいいし、チャーミングだなあと。

河尻:本の帯にも書いたんですけど、まさに「激しくてラブリー」。僕が初めてお目にかかったのは、2008年の北京オリンピックの前、開会式の衣装ディレクターをやっていらした瑛子さんを取材したんです。事前に聞いていた噂話は「怖い人」。メチャクチャ厳しい人だと聞いてましたから、戦々恐々ですよね。ところが現れたのは、そのイメージとは全然違ってすごく気さくな、チャキチャキの姉御というか。

宇多丸:展覧会の会場で流れていたインタビュー、あれは、2011年に河尻さんがラストインタビューされた際の音声なんですよね。もちろん内容には鋭さがあって、なるほどと思うんだけど、口調は気さくで。それこそ、うちの親類のおばさんたちにも近いような。

河尻:わかります(笑)。歯に衣きせぬ話ぶりでトンがった言葉がどんどん出てくるんですけど、ときどきポコッと無防備な面もあって、そこがチャーミングなんです。「私、こんなの作ったの。見てちょうだい!」みたいな気持ちがピュアに強い。

 あそこまで実績のあるレジェンドであるにもかかわらず、上からめいたところが一切なく、逆にインタビューする側に意見を求めてきたりする。いまの若い編集者がどんなものに注目しているか、すごく知りたがって話も盛り上がって、そうしたやりとり自体がとても気持ちいい。宇多丸さんと一緒で、僕もノックアウトされたんです。

■いいアイデアは風呂場で生まれる?

宇多丸:石岡さんのお仕事を、学びのヒントとするならば、彼女の創作のプロセスや姿勢というのは、メチャメチャためになると思うんですよね。

河尻:学びの玉手箱ですね。あそこまで徹底的にやるかどうかは別として。仕事にかける熱量とか、協働とか、越境して自分をアップデートしていくところなんて、クリエイターじゃない人でも、結構ためになるところがあると思ってるんですけどね。

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