ただ、出来には不満げだった。

「いい時のジャンプにはならず悔しい。本当はもっと(成功に)近くなっていると思います」

 異例のシーズンとなった今季は拠点のカナダに渡らず、日本にとどまった。GPシリーズは欠場。コーチ不在で長い時間、一人でリンクに立つ中で、その多くをクワッドアクセルに費やした。トライ数は1千回を超え、「あと8分の1回転」で着氷できるところまで迫っているという。課題も明白だ。

「(ジャンプが)高くなると、体が拒絶反応を示す。高さと回ることの両立が難しいです」

■目標は五輪金ではない

 今季、大会に出場したのは5年ぶりに優勝した昨年12月の全日本選手権と今年3月の世界選手権、そして4月の世界国別対抗戦の三つのみだった。どの取材の場でも繰り返したのはクワッドアクセルへの強い思いだ。

「(3連覇がかかる北京)オリンピックの金メダルではなく、4回転半を成功させるのが一番の目標です」とも話した。

 なぜ、この技にそこまでこだわるのか。羽生の少年時代のコーチである都築章一郎さん(83)は彼の性格から読み解く。

「とにかく負けず嫌い。(指導したころも)練習で色々なものを挑戦させてみた時、できないことがあっても絶対に弱音を吐きませんでした。それは持って生まれたものがあるのではないかと。魂というか、神業ですね」

 世界国別対抗戦での最後の会見。羽生は次のシーズンに込める思いを聞かれ、こう答えた。

「来季は来季にしかわからないですね」

 ただ、クワッドアクセルについてはきっぱり言った。

「自分の限界に挑み続けたいと思います」

 果たして来季、世界初の成功者になることはできるのだろうか。そして「4回転半をめざす道の上にあるなら考えます」とだけ話している北京五輪には出場するのだろうか。行く末は誰にもわからない。羽生は己を信じ、道なき道を切り開いていく。(朝日新聞スポーツ部・岩佐友)

AERA 2021年5月3日-5月10日合併号

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