始まった。次々とテレビでお馴染みの人が出てくるのだが、おじさんがホントによく笑うので、つられて楽しくなってくる。客席に座ってお笑いを観るのなんて20年ぶりくらいか。

「漫才の途中でトイレや売店に行く人多くてねぇ(苦笑)」。おじさんの言う通り、けっこう人の出入りが激しい。まぁ、落ち着きがない。自分がここで落語をやるとしたら、どうやるかなぁ……なんて考えていたら、トリのオール阪神巨人師匠のとき、おじさんが「すんません。私、膀胱が小さくて(照)」とトイレに出ていった。なんでやねん。吉本新喜劇で終演。「ありがとうございました。堪能しました」「いやいや、ただのお節介で。へへ」。おじさんに缶コーヒーを奢ってもらって「ではまた今晩」と別れた。

 夜は100人ほどの独演会だったのだが「そんなお客さんいませんでしたよ」と主催者から言われる。なんだったんだ、あのおじさん……。私は「NGKの妖精」ではないかと思っている。これを読んで「私でっせ」という人がいたら編集部まで連絡ください。特にお礼はしませんけど。あの写真は消去してくれ。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

週刊朝日  2021年5月7-14日号

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