「セロトニンの多くは腸で作られます。脳内のセロトニンはメンタルを安定させる働きが知られていますが、もともと腸内で作られるセロトニンの元となる前駆物質が脳に運ばれ、生成されます。この前駆物質が作られる過程に腸内細菌が関わっていることもあり、腸内環境の改善はメンタルの安定にも欠かせません」
前出の山田さんは、腸内細菌にしか作れない短鎖脂肪酸、中でも酪酸が特に脳に対して大事な働きを持っていると話す。
「酪酸はクロストリジウム属などの腸内細菌が作り出すのですが、抗うつ作用を持つことが動物実験で明らかになっています」
その実験で酪酸を投与されたマウスは、脳内の海馬や前頭葉の脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加していた。BDNFは神経細胞の成長や脳細胞の増加に不可欠な物質だ。BDNFが少ないとうつ病になりやすいと山田さんは言う。
「自殺未遂歴のある人は、このBDNFが少ない傾向があります。BDNFが多いかどうかで脳の健康が左右されるのです」
ストレスにむしばまれている記者にとって、心の安定に大事な酪酸は希望の光。増やすには酪酸を作り出す腸内細菌の“えさ”になる食事を与えることが重要。キーワードは植物由来の食事だ。
「食物繊維を豊富に含む食材と和の発酵食品をたくさん食べましょう。玄米などの穀類や豆類に、みそ、納豆です。植物食は単なる野菜ではなくホールフード。葉っぱも根も皮も丸ごと食べることです。普段なら捨ててしまう皮などに食物繊維は豊富に含まれているからです」(山田さん)
腸内環境の改善はもちろん脳だけではなく、体にも好影響。大腸がんのリスクが下がったという研究報告もあるという。50歳から65歳までのアフリカ系米国人と南アフリカの農村地域の住民20人ずつに対し、2週間だけ食事パターンを交換するという実験だ。
「実験の結果、米国人は腸内の炎症レベルが下がり、がんのリスクに関する検査値が低下しました。対して、アフリカ人は同じ検査値が劇的に増加したのです」(同)