■防衛省関係者も困惑
こうした混乱の最中、冒頭の菅首相側近の発言が飛び出す。結局、誰が計画の陣頭指揮を執るのか。責任の所在は誰なのかが全く不明確なまま「1日1万人」「大規模接種センター」など威勢のいい言葉だけが独り歩きする。そもそも「3密回避」「外出自粛」を訴え緊急事態宣言を出している政府が、地元ではなく「電車に乗って都心(千代田区大手町)の大規模接種会場まで来て」と言うのも矛盾している。その地元でも感染者が日々、増加。医療は逼迫(ひっぱく)し、ワクチン接種のスピードも追いついていない。名指しされた防衛省の関係者は困惑する。
「ワクチン接種の管轄は当たり前だが厚労省だろう。まずは医師会など医療関係者を動かすのが先決だ。自衛隊の仕事は国防ですよ」
自民党内には河野氏に同情する声も少なくはない。そもそも行政改革を担当する河野氏に、新型コロナ対策の切り札である「ワクチン接種」の責任を菅首相は半ば押しつけた。このポストは責任重大だが、防衛省、厚労省のように大臣の一言で動かせる直轄の事務方がいない。つまり、手足がないのだ。結局、他の省庁と連携しながら政策を進めるしかないが、すでに各省庁も手いっぱいだ。そもそも、このポストを受けることを河野氏は固辞したという。
■「ポスト菅」への牽制
こんな自民党関係者の証言もある。
「永田町ではこの人事は、『ポスト菅』の筆頭である河野氏に対する『当てつけ』という話があるくらいです。ワクチンが失敗すれば河野氏の責任。成功すれば菅氏の手柄。官邸はあえて閣内に取り込んだ河野氏に、ワクチンという難題を押しつけることで『ポスト菅』を牽制する意味合いがあるとまで言われています」
(編集部・中原一歩)
※AERA 2021年5月17日号より抜粋
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