風邪の引き始めにも効くという食材、納豆。料理研究家の柳谷晃子氏によると全国各地には納豆に関する面白い伝承があるという。
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外国の人に「食べましたか?」と尋ねたくなる食材といえば納豆ですが、最近は納豆大好きという人が増えていますね。
もっともポピュラーな納豆は糸引き納豆で、豆の大きさによって分類される「粒納豆」です。「ひきわり納豆」は大豆を煎ってから粗く挽き割り、表皮を除いて作るんですよ。知っていましたか? 糸を引かない納豆には、大徳寺納豆があります。とても旨味があり、炒めものによく合います。フライパンにごま油と大さじ1杯の大徳寺納豆を入れて少しつぶし、強火にして牡蠣を入れ、紹興酒をさっとかけるだけでおいしい一品になります。京都の友人は、これをお酒のあてにするそうです。
納豆のネバネバはムチンという成分で、山芋や里芋、オクラと同じです。ムチンには、気道や粘膜などを潤し、乾燥を防ぐ役割があります。
納豆汁は風邪の引き始めにとてもお勧めです。納豆をよく叩きながら混ぜ、ネバネバを汁に溶け込ませましょう。豆は消化に時間がかかるので、体が弱っている時は上澄みを飲むだけでもいいんです。
私は納豆にごまやキムチ、青海苔、じゃこ、めかぶなどを混ぜるのが大好きです。特に海苔に巻いていただくことが多いですね。わさび漬けとの組み合わせもおいしいですよ。
納豆が嫌いな人は、匂いやネバネバがいやなようです。酢を入れたり、油で炒めるとやわらぎ、食べやすくなります。
全国には納豆の伝承がさまざまあります。岩手県南部地方、山形県、福島県、茨城県には納豆を「嫁(よめ)さん聟(むこ)さん納豆(なっとう)」と呼ぶ地域があります。大豆は嫁さま、藁苞(わらづと)は聟殿といい、聟が嫁をすっぽり包みます。藁苞を生き物すべての母胎である産神(うぶがみ)に見立て、豊産の祈りを込めました。
秋田県仙北地方には、「初聟と納豆は二晩(ふたばん)げ」という言い伝えがあります。正月にお嫁さんの実家に里帰りする聟殿は何かと気苦労が多いから、たっぷり二晩寝かせてあげよう。納豆もこんな聟殿によく似ている。たっぷり二晩寝かせないと粘りの強いおいしい納豆にならない、というものです。
山形県新庄市には「一夜納豆は食うもんでね」と伝わっています。納豆は風邪を引きやすいから、冷たい風が入り込まないようにムシロでくるんでやろう。そして二晩寝かせてやろう。一晩では、煮疲れが残っているからおいしくない。二晩すぎると疲れもとれて味がしっとりしてくると、納豆づくりの極意を表しています。
※週刊朝日 2013年6月21日号