<鬼を人に戻す方法はあります どんな傷にも病にも 必ず薬や治療法があるのです>(珠世/2巻・第15話「医師の見解」)
日輪刀で戦うしかなかった鬼殺隊に、珠世は「薬」という「新しい戦い方」の選択肢をもたらした。珠世の医学の知識は、劣勢だった鬼との戦いを打破するための、起爆点となっていく。蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの協力もあり、薬の開発は劇的に進んだ。
■女神のように美しく優しい珠世
珠世は、鬼を「人間に戻す」薬を開発しただけではない。たった1例ではあるが、人間を「鬼化させる」ことに成功し、重い病に苦しんでいた愈史郎(ゆしろう)という少年を救っている。
愈史郎は珠世を慕うようになり、珠世が笑っても、怒っても、「美しい」と見とれる。人ならざる者の恋。珠世の美貌と知性、そして優しさは、いろいろな人の心を惹きつけた。炭治郎も、珠世がほほ笑んだ姿を初めて見た時には、ハッとした表情で頬を赤めている。珠世は善悪両方の面があるが、他者の人生を大きく転換させた。その能力と魅力が珠世にはあったのだ。
■無惨の「運命の女」
このように、愈史郎や、炭治郎・禰豆子兄妹には、女神のように優しい珠世であったが、無惨に対する彼女の怒りは、激しい狂気に包まれていた。薬で無惨を危機に追いこんだ珠世が、無惨の耳元でささやく場面がある。
<さぁお前の大嫌いな死がすぐ其処まで来たぞ>(珠世/22巻・第196話「私は」)
かつては「お気に入りの鬼」として、無惨は珠世をそばに置いていた。しかし、その珠世が、無惨の生命を消すために、首元に腕を絡ませて、ほほ笑みながら死を予告する。この珠世の姿は鬼そのもので、美しくも恐ろしい。無惨は珠世を鬼にしたことを後悔しただろう。無惨にとって、珠世はまさに自分を死へと導く「運命の女」であった。
■それでも消えない珠世の「罪」
医師として人間を救い、無惨との戦いに大きな貢献を果たした珠世だったが、「夫殺し・子殺し」の罪のため、最後は地獄へと進むことになる。かつて珠世は自らを「鬼ですから」と言い、悲しそうに顔をふせたことがあった。彼女は鬼として生き続けることを望んでいたわけではなかった。あれほどの薬を開発できた珠世なら、あんな形で地獄に行くのではなく、別の選択肢がいくつかあったはずだ。人間になることもできた。鬼のまま、もう少し生きることもできた。